あの日のキミにごめんね
翌日、登校した克弥は、万里子のことが気になった。
万里子は、隣のクラスだ。
万里子とは、去年の二学期に万里子が転校してきたとき、同じクラスになった。
まだ、教科書の揃わなかった万里子に隣の席だった克弥が、教科書を見せてあげなければいけなかった。初めは、席もなるべく離れて座っていたが、ある日、克弥が筆記用具を忘れた時、朝からずっと万里子が貸してくれたことがあった。そのとき、照れくさいのもあって消しゴムを割ってしまった。花の香りのする、良く消える消しゴムだった。
克弥は、無言で差し出したが、万里子は嫌な素振りも見せず、「気にしないで」と言って微笑んでくれた。克弥は、恥ずかしくなった。「ごめんな」と言えなかった。
それから、少しずつ、話すようになった。教科書を見せる必要がなくなってからも、隣の席の万里子の消しゴムを時々借りることもあった。
いつもいい香りがする消しゴムは、万里子の香りのような甘酸っぱい思いがした。
そして、春になって学年が上がったとき、万里子とは違うクラスになった。
言葉を交わせていたのに 急に遠くに感じ、廊下で会っても 何となく照れくさく感じて話すこともなくなった。
克弥は、万里子の教室を覗いた。
運動場側の窓から二列目の後ろから二番目が万里子の席だ。話さなくなってからも、克弥は、通り過ぎる万里子の教室を何となく見て知っていた。
たまに、目が合って万里子が笑顔を見せると、克弥は目を逸らし、教室まで走っていった。
今朝も、万里子がその席に座っている。
だが、毬のあたった顔は、向こう側で見ることができなかった。
万里子も、克弥に気付いたものの、目を逸らし少し向こうを向いてしまった。
克弥は、万里子が怒っているのだろうと思い、そのまま自分の教室まで歩いていった。
授業の間も気に掛かりはしたが、好きな授業や給食の時間には、すっかり忘れていた。
作品名:あの日のキミにごめんね 作家名:甜茶