みずいろ
待ちに待って、ようやく来たメールは
〈えっと、埼玉住みの理系大学生だよ~
趣味は読書で、色々読むけどホラーとサスペンスはあまり読まないな
怖いの苦手なんだ(汗)
他にも漫画とかゲームも好きだよ
ゆったりメールできるといいよね
仲良くしてね〉
というものであった。
…なんだろう。
なんだかすごく引き込まれる文章だな、と思った。
砕けた文体のなかにも独特さと他人を気遣う優しい印象が漂う。
メール一通でここまで心を動かされることは今まであっただろうか。
名前も知らない、ほとんど何も知らないかれに惹かれたわたしは、あわただしく左手の親指を動かす。
〈メールありがとうございます!
私も埼玉ですよ(#^.^#)
理系とかかっこいいですね☆彡
こちらこそ仲良くしましょう!!!
読書か~
最近あんまり読んでないけど、私は普段は恋愛小説とか音楽ものを読みますよー
なんかおすすめの本とかありますか(・・?) 〉
送信して、また数分後に返信があり、
〈そんなことないよ、普通だよ~
大学では数学の勉強を主にやってるね
本は○○○○さんのが読みやすくてオススメかな〉
―――
そうして、わたしたちのみじかい文章のやり取りはどんどん続いていった。
メールのなかで、かれは自らを“学(まなぶ)”と名乗った。
ちなみに、わたしは名前そのまま“なずな”で名乗った。
当時のわたしは、ハンドルネームだとか本名でない名前を名乗るだとか、そういった概念が無かったので、何も考えず学さん、学さん、と呼んでいた。
そんな学さんは、火曜から木曜は夕方から塾講師のバイトがあるらしく、わたしも水曜と木曜は夜から塾で、なおかつ部活が毎日あったので、お互いの都合のいい時間帯に気ままにメールを返すという、縛りは無いけれど充実していてとても楽しいひとときであった。