幸福の指輪
少年の罪
何て、恐ろしい物を見つけてしまったのだろうと思った。
足が、すくみ上がってしまって、動かない。
恐ろしくて仕方ないのに、視線は女の人からは離れてくれなかった。
綺麗なドレスを纏っているから、おそらくは貴族なのじゃないかと思う。
自分には、恐ろしく縁遠い存在だった。
自分たちが、貧困に喘いでいるその一方で、金を湯水の様に使い、優雅な生活を送っている、何もかもが正反対の貴族。
複雑な心境だった。
ざまあみろ。贅沢ばかりしているから、こうなるんだと嘲笑し、その一方で浜辺に打ち上げられているなんて、なんて可哀相だろうと思った。
微かに見える横顔は青白く、見つめているだけで肌寒くなってくる。
しばらくして、ようやく感覚が戻って来た。
警察に通報しないと……。
そう思って、体を動かしかけ死体の持つある物に視線が止まる。
とても綺麗な指輪だった。贅沢な装飾の施された、金色の指輪。おそらくは、きっととても高価な物なのだろう。
ごくり、と固唾を呑み込む。
それが、いけない事だとは分かっていた。だけれど、こみ上げて来る気持ちを抑えられない。
ドレスなんかを盗んだら、流石にバレてしまうだろうけれど、指輪くらいなら流石に気付かれまい。
気が付くと、ぼくは指輪を手に駆けていた。
取り返しのつかない事をしてしまった……そんな風な事が頭に浮かんだけれど、でもそれでもぼくは足を止める事が出来なかった。