幸福の指輪
ぼくは呆れた風に、溜息をついてみせる。
「ぼくは死体を見るために、わざわざ浜辺に来たんですよ?既に観察し終えているのなら、そんな事はしません」
なるべく、キッパリとした口調に聞こえる様に心がけた。
「でもよぉー。それは、アレだ」
人差し指を突き上げて、警部は続ける。
「なんだかんだ言っても、ついつい現場に戻っちまうのが犯人の常だからよぉ」
「言いがかりは止めてください!」
ぼくは感情的になって叫んだ。
とことんぼくを貶めようとする警部にむかむかと腹が立つ。これは、芝居でもなんでもなく、ぼくの感情の爆発だった。
「たしかに、死体を探し回っていたというのは、とても奇妙な事かもしれません……でも、だからと言って、盗人呼ばわりされる筋合いはないはずです!」
叫ぶように言って、睨みつけると警部は「仰る通りです」とうなづいた。
「でもよ、念のための確認だ。人間なんて、生きてりゃ皆等しく容疑者なんだからよ」
「意味分かんないんですけど……」
ふぅ……とため息をついて、ぼくは呆れた仕草をしてみせる。
そろそろ、ここいらが潮時だろうか。
「もう……帰りますよ。配達の仕事もありますし」
早く、ここから出たかった。この男から離れて、外の空気を吸いたかった。
「あぁ、そうかい。じゃあ、坊や気をつけて帰るんだよ」
そう、警部に声をかけられたものの、ぼくは返事を返さなかった。
そんな事よりも、早くここを出たい……。
ひやりとした空気が、気持ち悪くて仕方なかった。