狐火グラッジダンス
食事を終え、ベッドの中に潜る。すると、何故だろうか。あの火の球たちが瞼の下で踊る。月夜の下で、彼らは踊るのだ。楽しげに、悲しげに。
あれ、おかしいな。何かがおかしい。その違和感の正体に、私はすぐ気が付いた。
「月っ!」
月だっ! 鬼火が舞っていた時、月が出ていた。“雨なんか降っていなかった”のだ!
私は跳び起きる。止せばいいのに、明日でいいのに、私は家を飛び出す。
河原君に連絡を取る。あの日は雨は降っていなかった。別の要因だ、と。河原君は「すぐに行きますのでじっと待っていてください」と電話を切った。
夜道を直走る。まるでジャック・オ・ランタンに惑わされたかのように、走る。
そして、空き地へと辿り着く。丁度その時だった。ゴミ屋敷から空き地に向かって、火の点いたシケモクが投げ込まれた。
すると、ぼぅっと、シケモクが燃える。まるで人魂のように、青白い火を巻き上げ、ぼぅっと燃えて天に昇る。
――腐敗ガス。細菌が死体を分解する時に発生するガスであり、アンモニア、メタンなどを成分に持つ可燃性のガスだ。これだけ大きな火の球を作るのだ。そのガス量を作り出せるほど大きな死体は、この辺には一つしかない。
ふと、視線を感じた。茂みの奥から一つ、そしてゴミ屋敷の方からも一つ。ゴミ屋敷の家主――仙人が、敵でも見るかのように私を見つめていた。
仙人は家の中に潜り込む。
そして、茂みの奥には狐が一匹。こちらをジィと見つめている。
やばい、厭な予感がする。止せばいいのに、引き返せばいいのに、家に帰ってベッドに潜り込めば良いのに。私は引き寄せられるように空き地の中に潜り込んでゆく。
はたして、そこに辿り着く。雑草の生育の悪い個所が一区画。そりゃそうだ。一度掘り起こして埋めなおしたのだ。他よりも成長が遅い、いや遅れるに決まっている。
「先輩……大丈夫ですか?」
河原君が来た。手にはスコップを持っていた。
助かった。一人では心もとなかったところだったのだ。それにしても気が効く奴だ。私の電話でそこまで推察してそれを持ってきたのか。
「ここ、掘ろう……」
「はい」
河原君が黙々と土を掘り返して行く。掘れば掘るほど臭いが強くなり、しばらく掘ると、何か柔らかなモノにスコップが当たる。
人の死体だった。
思い出したかのように、胃の中がせり上がって来る。気持ち悪い。臭いに当てられ、腐乱死体に当てられ、胃の中のモノをぶちまけそうになる。
「先輩……俺が最近オカルトにハマっている理由、そういえば話していませんでしたね」
そんな情けない私を横目に、河原君は言う。
「怖いんですよ。魂とか幽霊とか、そーいう訳の分からないモノが。だから、そーいうのの正体を調べ回ったんです。正体が分かれば怖くなくなるかも知れないって。こいつの姿を見なくて済むカモって――」
「――え?」
河原君は、スコップを振り上げた。