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狐火グラッジダンス

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 夏の熱い日差しの下、私はビニール袋片手にゴミ屋敷の隣を歩く。
 さてさて、どこから説明したものか。まずは事の真相から。
 ――と言っても、ここまで読んだ方は真相に辿り着いていることだろう。あの死体を埋めたのは河原君だった。あの日、私は河原君の手によってあの死体と一緒に埋められる筈だった。ところがだ、そんな危機一髪な状況を救ってくれたのが、これもご予想通り。隣のゴミ屋敷の家主、仙人だった。
 仙人は河原君の犯行に前々から気付いていたという。しかし、以前の職場で患った人間嫌いと対人恐怖症が極まり、中々通報に踏み込めずにいたという。あのゴミの要塞も、そういった人を寄せ付けない為のバリケードだったのだろう。
 ――ただ、それでも消えない良心が尾を引いたのか、腐乱ガスが可燃性だと知っていた仙人は、私が通りかかる度にシケモクの火を投げ入れて人魂事件を起こしていたという。ある意味で、自分のことを棚に上げて言うならば、私が危険な目に会った元々の原因は仙人にあるとも言える。
 だが、私を危機に陥れたのが仙人だとしたら、私を危機一髪救ってくれたのも、仙人だった。スコップを振り上げた河原君を後ろから鉄パイプでぶん殴ったのだ。
 今でも思い出すのだ、あの恐怖に怯えた泣き崩れそうな顔を。ただ、その情けない表情が、今まで見たどんなヒーローよりも輝いて見えたのだった。
 事のあらましはこんなところだろうか。
 河原君の行方は、まあ語るまでもない。ただ、いくつか疑問が残る。あの猫の死体とか、後は最初に見た三つの火の球だ。

 ――例え人の腐乱ガスとはいえ、三つの火の球を空き地で舞い踊らせるのはいくらなんでも不可能の筈だ。

 それだけが今でも心の奥に引っ掛かっていた。自然のいたずらか、それとも――。
 そんなことを考えていた時だった。目の前にそれは現れた。
 ――狐だった。狐はクルリと身を翻すと、空き地の奥の茂みの中に潜り込んで行った。
作品名:狐火グラッジダンス 作家名:最中の中