誰か彼を探して
親友の梨香ちゃんはJ.Jと同じ団地に住んでいた。
私は何か声をかけている森下さんを
すり抜けるようにして、自転車を精一杯漕いで
梨香ちゃんの待つ団地の隅のブランコしかない公園に
急いだ。
信号の色なんて目に入らない。
車道を全速力で走る私は、頭の中が空っぽだった。
向かい風が強い。
夜が泣いている。
J.Jが泣いている…。
梨香ちゃんの話によると
J.Jの母は旦那の実家の義父の看病に
3年程前から長野まで月に数回通っていたが
義父は病院で寝たきり、ついに義母までも
車椅子での生活になり、自分ひとりでは
どうにもならなくなったところに
実家の近所では、お金をもらいたくて看病してると
ひどい噂をたてられた。
挙句に旦那のリストラで、ノイローゼになっていたらしかった。
実家の前の国道で、頭から灯油をかぶり
自分で火をつけたらしい。
近所の人が燃えているJ.Jの母を見て、
慌てて毛布を濡らし、消しにかかったが
間に合わなかったそうだ。
私は燃えている彼の母を想像して
震えが止まらなかった。
梨香ちゃんは泣いていた。
人はどうして
人を傷つけたがるのだろう
そして、知らない間に自分も
人を傷つける
通夜は日曜日、団地の集会所を借りるらしい。
泣かないで、J.J…。
私は彼の泣き顔を思い
自転車を走らせながら
何度も、何度も涙を拭った。
夜の闇は深く、家までたどり着けそうもない夜
だというのに、胃が治りかけた私は
こんな時に、不意にお腹がすいてしまった。
無意識に、コンビニでタマゴサンドと牛乳を買い
自転車にまたがり、その場で慌てて
流し込んだ。
タマゴサンドは何度も胸のあたりでつかえて
苦しくて、苦しくて、拳で胸を叩いた。
J.Jの母が中学の卒業式の日、
水色のスーツに、白い花のコサージュを胸に付け
嬉しそうに、遠くから微笑んでいた顔を思い出した。
花ちゃん、いつもありがとね。
そんな…
でも、これからもよろしくね。
もちろんです。
いつでも遊びに来てね。
はい。
早速、今夜はどうかしら?
もちろん、行きます!
J.Jの母の想い出は沢山あって
思い出すことを拒否しなければ
次から次へ頭と心を駆け回る。
牛乳で最後の一口を流し込み、
大声で泣いた。