誰か彼を探して
急性胃腸炎になったのは、
これが初めてではなかったので
食べずに胃を休ませるのが一番良い方法だとは知っていたが
流石に空腹で半日働いたせいか、フラフラしたので
プリンを少しだけ口にし
処方された薬を飲み、部屋のベッドに横になると、
すぐ深い眠りに堕ちた。
J.Jの部屋の真ん中にはコタツがあって
窓際に机、本棚には漫画本が綺麗に並べてあった。
学校帰りに制服のままJ.Jの母が買って来てくれた
フライドチキンにかぶりつきながら
いつも二人で漫画を読んだ。
おかげで私は中3の春にはおでこがニキビだらけになっていた。
花ちゃん、オレ、卒業遠足休もうかな?
なんで?
どうせ行ったって誰も相手にしないだろうし。
大丈夫だよ、私と一緒にずっといよっ!
ホントに?花ちゃんの友達は?
すぐにはぐれたふりするよ。
ホント?
うん、ホント!
じゃあ、行こうかな…
行こうよ!一緒に乗り物乗ろう!
私がいたせいで、いつまでたっても
彼に友達ができなかったのか。
ひとりでも私という友達がいて
彼が救われたのか、どちらが良かったかなんて
私にはわからない。
ただ、いつもJ.Jを独り占めしてきたのは
事実だった。
翌日の夕方、アルバイトに出掛けると
副店長の森下さんが満面の笑みで迎えてくれた。
ウエイティングがかかるほど
混雑してキッチンもホールもパンク寸前だったが
森下さんは、あからさまに私をフォローしてくれた。
森下さんの優しさが、特別扱いに感じて
なぜか嬉しくなかった。
学校の先生にえこひいいきされているような
そんな、嫌な気分だ。
同じホールの仲間に気づかれたくなかったし
森下さんの事が明らかに好きであろう
22歳の大学生も夜のシフトに入っていた。
仕事が終わり、店の裏手の従業員通用口から
自転車置き場へ向かう途中で、森下さんが声をかけてきた。
薄暗かったので、驚くと同時に
バッグの中の携帯の着信音が鳴った。
親友からだったので、森下さんに会釈だけして
携帯で話し始めた。
「花ちゃん! 大変だよ!」
「どうしたの?」
「J.Jのお母さんが…」
「なに?」
「J.Jのお母さんが焼身自殺図ったって」