誰か彼を探して
「花ちゃん、オレ、アルバイト始めるから」
「いつから?」
「明日から」
高校を卒業したというのに
二人共、就職できずに
少なからず焦りながら
毎日を過ごしていた。
桜の蕾も膨らまない
春まだ浅い夜中の公園のブランコで
J.Jの決断に私は置いてきぼりを食ったようで
腹が立って、無口になって思いきりブランコを漕いだ。
「怒ってるの? 勝手に決めて」
「怒ってないよ…怒ってないけど」
私はブランコを降りて歩き出した。
「ごめん、相談しないで」
「いいよ、別に…」
今まで何でも相談してから決めていたJ.Jが、
急に自分ひとりで決めてしまったこと、
素直な気持ちを彼に伝えたくない自分。
私の独占欲がモヤモヤと体を熱くイライラさせた。
「じゃあ、もうこんな風に会えないんだ」
「会えるよ」
「会えないに決まってる」
私はこの時、全く知らなかった。
J.Jの父親がリストラにあって家計が火の車だったこと。
働き口も決まらず、家にいて、たまに夜中に抜け出し
遊んでいる彼が、どれだけ両親から
口うるさく早く働けとせっつかれていたかなんて。
「どこでバイトするの?」
「新宿」
「何のバイト?」
「居酒屋の客引き」
「はぁ? そんなのできるの!?」
「わからない」
「だいたい、人の目、見ることできるのっ!?」
私は調子に乗って、言ってはいけない一言を…
言ってしまった。
頭の中がグルグル回って、これ以上
一緒に居いたら、もっとひどいことを
言ってしまいそうで、振り返らずに
公園通りをひたすら歩いた。
体は火照ったままなのに、頬を撫でる風が
冷たくて、虚しかった。
私はそれから、謝る言葉を探しながら
時間も忘れ、しばらく歩き続けた。