落ちる
<幻想>
赤音。日の光に溶けて消えてゆく。淡く、薄い、オレンジ色になって、透き通る。
私は赤音を追いかける、何度も、何度も、どこまでも。けれど、そのたびに赤音は消えて、私の指先をすり抜けてゆく。触れることは叶わない。
これは幻影。これは幻。
私の見ている白昼夢のような世界。けれど、それが私。
心。私の赤音だ。
ふわり
無音の風のように何者にも囚われることなく、淡く溶けてゆく。
赤音。
そしていなくなる。私は透明の赤音を追いかけてどこまでも走ってゆくのだけれど、そのうちになぜ追いかけているのか、自分が何をしているのか分からなくなってくる。走る足は縺れて、呼吸が苦しい。それでも吐き出される空気が私を生きていると知らしめる。息をする音だけが存在している。
もう何もかもがあやふやで、けれど私はそんな曖昧な世界しかもう思い出せないのだと気付く。ずっと長い時間、私はその世界に一人だった。曖昧な幻に私の影が一つだけ。音もなく、何もない。静かな世界。
今はその世界の中で赤音だけが光を持って存在している。いたい、いたい、痛みを伴って鮮やかに色づく。
まるで血のような赤。
私は海。私は空。私は心。私は人。私は涙。私は命。
けれど、けれど、からっぽ。
からっぽの空
赤い光