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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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コウタと嘉助と浜昼顔

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 コウタと嘉助は、ケンタの身が心配で後を追いかけました。大人から流れ弾に当たるといけないから、山へ入ってはいけないと止められていたのですが、そんなこと少しも考えていられませんでした。
 カランカランと鳴子の音がひびきます。その音をたよりにケンタを追いかけるキツネを、コウタたちはさらに追いかけました。
  ズダーン ズダーン!
 とつぜん、鉄砲の音がこだましました。
「まさか、ケンタが」
 コウタと嘉助は顔を見合わせ、音のした方へ急ぎました。
「ケンタ。だいじょうぶか」
 やぶをかき分けていくと、そこには大キツネが横たわっていました。鉄砲うちの人がしとめたのです。
 コウタと嘉助はホッとして、へたへたと座り込んでしまいました。鉄砲うちがキツネをかついで帰っていくと、ふたりはケンタをさがしました。
「おーい、ケンタ」
「キュイ〜ン、キャウ〜ン」
 犬のような鳴き声が聞こえてきたので、ふたりは顔を見合わせて首をかしげました。コウタが声のした方のやぶをかき分けると、小さなキツネがいるではありませんか。
「あれ? ケンタ?」
 ケンタは今の鉄砲の大きな音で、ようやくキツネも姿にもどることができたのです。
「良かったな。ケンタ」
 嘉助が頭をなでました。でも、ケンタは腰が抜けてしばらくの間、動けませんでした。
 それから少したってすっかり良くなったケンタは山へ帰っていきましたが、時々は子どもたちのところへ遊びにやってきました。

 何年かたちました。コウタも嘉助も青年になり、キツネのケンタはだいぶ年をとってしまいました。
 それでも、ケンタはときおり山から下りてきて、コウタや嘉助と会いました。キツネのすがたにもどったときから、自分でしゃべることはできなくなっていましたが、人間のことばはちゃんとわかるのです。
 やがて戦争が始まり、コウタと嘉助のもとにも赤紙がきました。
 兵隊に行く前の晩、小家名の浜でコウタと嘉助とケンタは別れをおしみました。
「絶対生きて帰ってくるからな」
 コウタと嘉助はケンタにそういいました。ケンタはキューンと鳴くと、首を大きくふりました。
 ふたりが配属されたのは南の島の激戦地でした。雨のようにふってくる弾をよけながら、ふたりは生きて帰ることだけを心の支えにしていました。そして、見はりの夜には星をながめながら、ケンタのことを話すのでした。