コウタと嘉助と浜昼顔
これもおきまりの話です。心えているコウタは、黒いつぶらな瞳をくりくりと動かして、ひいおじいちゃんの顔を見ました。
「うん。聞いたよ。何回も。でも、ほんとなの? 化かされたって」
「いやあ、たいていは酒に酔っていたときだっていうから、本当のことはわからん」
いつもなら、そこで話は終わって、ほかの話になるのです。そして、歩道橋をおりて家に帰るのですが、この日はちがいました。
「だがなあコウタ。今からわしがいうことは本当だ。わしと親友の幸太は、キツネと友だちだった」
コウタはびっくりしました。
「ええ? すごい。本当なの?」
「ああ、今までだれにも話したことはない。幸太と仲間の秘密だった。だが、もうそのことを知っているやつは、みんな死んでしまった。だから、コウタ。おまえに話しておこうと思ってな」
ひいおじいちゃんの灰色がかった目がうるんでいます。コウタはしんけんな顔でつばをごくんとのみこみました。
「わしらがキツネのケンタと会ったのは、あのあたりだった」
ひいおじいちゃんは、左側にある銀行の駐車場を指さして話し始めました。
「あのころは、遊ぶついでに落とし穴を作ってな。ここを通る人を落っことしてはしかられたもんだ」
「へえ、そんないたずらしたんだ」
「ああ、じいちゃんと幸太はいたずらの名人だったんだ」
そういって、ひいおじいちゃんは声を立てて笑いました。
「あの日は、まだめずらしいかんしゃく玉を幸太がもってきてな。落とし穴にうめたんだ」
けれど、その日は引っかかる人がおらず、日がくれてしまい、仲間はみな帰ってしまいました。
嘉助も帰りたかったのですが、幸太がねばるので嘉助もつきあっていたのです。
「だいぶ暗くなってから、ぱんぱんって音がしてな。わしらは大喜びしたんだ」
ふたりが落とし穴のそばに行くと、なかから子どもの泣き声がしたので、ひっぱり上げようとしました。
ところが、のばした手にふれたのは、浜昼顔のつるでした。二人は首をひねりながらも、つるをひっぱりました。
子どもたちは、落とし穴を作るとき、落ちた人がけがをしないように穴の底に浜昼顔のつるをしきつめていました。
砂地なので、子どもの仕事でもけっこう深い穴がほれるのです。そのため、子どもなりの知恵で、そうしていたのです。
作品名:コウタと嘉助と浜昼顔 作家名:せき あゆみ