コウタと嘉助と浜昼顔
「なあ、コウタ。ここいらは昔、ひろーい原っぱだったんじゃぞ」
コウタを連れて国道までやってきたひいおじいちゃんは、歩道橋の上にのぼると、決まってこういいました。
「小家名(こやな)の浜っていってな。海からの砂浜がずうっとこっちまで続いてたんだ」
と、家なみの向こうに少しだけ見える海から、右手の小高い丘までを指さしました。
戦争が終わるころまで、このあたりには家が一けんもなく、今、歩道橋の下を走る国道が、そのころはあぜ道のように細く続いているだけでした。
そして、ハッカや浜昼顔の生えたこの小家名の浜では、大ぜいの子どもたちが地区ごとのグループに分かれて、『戦ごっこ』をして遊んでいたのです。
ガキ大将の指揮の下、作戦を立てる参謀や敵をさぐる斥候まで、それぞれの役割もちゃんとありました。
どろを丸めた爆弾、木の実の弾のパチンコ、竹で紙の弾をふき飛ばすふき矢など、自分たちでくふうして武器を作って戦ったのです。
コウタのひいおじいちゃん、嘉助(かすけ)は、八十七歳。散歩のたびにコウタをつれてここにきては、昔をなつかしんでいました。
七歳のコウタは、ものごころつく頃から、耳にタコができるくらい聞かされていましたが、この話が大好きでした。
子どものように目をきらきらさせて語る、ひいおじいちゃんの話は楽しくて、まるで自分がその場にいたかのようにワクワクできたからです。
そして、次に決まってひいおじいちゃんはこういいました。
「コウタ。お前の名前はな、わしの親友幸太の名前なんだぞ」
ひいおじいちゃんは、自分の子どもにこの名前をつけたかったのですが、うまれたのはみんな女の子でした。やっとひ孫になって、男の子が生まれたのです。
「おまえがうまれて、ようやくわしの夢がかなった」
ひいおじいちゃんは、シワだらけの顔に目がうもれてしまうほどの笑顔で、コウタの頭をなでました。
ひいおじいちゃんの親友の幸太(こうた)は、このあたりの村では一番のガキ大将でした。
今、小学校が建っている、歩道橋の右側にある小高い丘を庚申山(こうしんやま)といい、幸太とひいおじいちゃんのグループは、そこを陣地にしていました。
その場所は、昔から、キツネがでて人をだますといわれていた場所でした。
「小家名のキツネの話はしたな?」
コウタを連れて国道までやってきたひいおじいちゃんは、歩道橋の上にのぼると、決まってこういいました。
「小家名(こやな)の浜っていってな。海からの砂浜がずうっとこっちまで続いてたんだ」
と、家なみの向こうに少しだけ見える海から、右手の小高い丘までを指さしました。
戦争が終わるころまで、このあたりには家が一けんもなく、今、歩道橋の下を走る国道が、そのころはあぜ道のように細く続いているだけでした。
そして、ハッカや浜昼顔の生えたこの小家名の浜では、大ぜいの子どもたちが地区ごとのグループに分かれて、『戦ごっこ』をして遊んでいたのです。
ガキ大将の指揮の下、作戦を立てる参謀や敵をさぐる斥候まで、それぞれの役割もちゃんとありました。
どろを丸めた爆弾、木の実の弾のパチンコ、竹で紙の弾をふき飛ばすふき矢など、自分たちでくふうして武器を作って戦ったのです。
コウタのひいおじいちゃん、嘉助(かすけ)は、八十七歳。散歩のたびにコウタをつれてここにきては、昔をなつかしんでいました。
七歳のコウタは、ものごころつく頃から、耳にタコができるくらい聞かされていましたが、この話が大好きでした。
子どものように目をきらきらさせて語る、ひいおじいちゃんの話は楽しくて、まるで自分がその場にいたかのようにワクワクできたからです。
そして、次に決まってひいおじいちゃんはこういいました。
「コウタ。お前の名前はな、わしの親友幸太の名前なんだぞ」
ひいおじいちゃんは、自分の子どもにこの名前をつけたかったのですが、うまれたのはみんな女の子でした。やっとひ孫になって、男の子が生まれたのです。
「おまえがうまれて、ようやくわしの夢がかなった」
ひいおじいちゃんは、シワだらけの顔に目がうもれてしまうほどの笑顔で、コウタの頭をなでました。
ひいおじいちゃんの親友の幸太(こうた)は、このあたりの村では一番のガキ大将でした。
今、小学校が建っている、歩道橋の右側にある小高い丘を庚申山(こうしんやま)といい、幸太とひいおじいちゃんのグループは、そこを陣地にしていました。
その場所は、昔から、キツネがでて人をだますといわれていた場所でした。
「小家名のキツネの話はしたな?」
作品名:コウタと嘉助と浜昼顔 作家名:せき あゆみ