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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 4 父と子、母と子

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「またこんなところにいるし・・・アンドラーシュ様が探してたよ。」
 リィナがため息混じりにそう言って近寄ってくるのを、シモーヌは逃げるでもなく、立ち上がるでもなくグランパレスの中庭に腰を下ろしたまま迎えた。
「アンはちょっと心配しすぎなのよ。」
「アンドラーシュ様だけじゃなくて陛下もオロオロしてた。まったく、本当にシモーヌは見た目と行動のギャップが激しいわよね。そんなんじゃ実家に帰されちゃうわよ。」
「それはないわよ。そのギャップが良いって陛下は仰っていたもの。」
 リィナの言うことなど気に止めた様子もなく、シモーヌがそう嘯いた。
「はいはい。ごちそうさまです。さぁ、それじゃ今日も検診の時間ですよ、王妃様。」
 リィナはそう言ってシモーヌに手を差し伸べるが、シモーヌはその手を取らずに口をへの字にまげた。
「・・・あれ苦手なのよね・・・なんかくすぐったくて。」
「苦手でもちゃんと受けなきゃ駄目よ。何と言ってもあなたのお腹の中にはこの国の未来を担う子がいるんだから。」
「でも、毎日毎日する必要はないと思うのよ。カーラ先生だってお忙しいのに私ばっかり構わせちゃってるし。」
「宮廷医師が皇族を看るのは当たり前でしょう。むしろシモーヌ付になってから仕事が楽になったって言ってたわよ。」
「うう・・・」
「はい、いいから観念する。これ以上時間をかけちゃったらそれこそカーラ先生に迷惑がかかっちゃうわよ。」
「わかったわよ。はぁ・・・憂鬱だなあ。」

「双子?」
「ええ。」
「やった!二人も家族が増えるのね!素敵!」
 出産を間近に控えたある日、検診のあとで、カーラの言った一言に、シモーヌは飛び起きた。
「こら、急に起き上がらない。大事な身体なんだからゆっくり動きなさいと言っているでしょう。」
 カーラは飛び起きたシモーヌの頭を軽く小突いて笑ったが、その笑いもすぐに消える。
「・・・どうかなさいましたか?」
「・・・・・・シモーヌ、知っているわよね。この国では双子は不吉なことの前触れとされていることを。」
 カーラの言わんとしていることを察して、シモーヌが表情を曇らせた。
「嫌です。」
「シモーヌ。」
「嫌です。そんな事。絶対に嫌です。」
「シモーヌ、話を聞いて。」
 ブンブンと首を振ってシモーヌが耳をふさぐ。
「嫌です、絶対に。絶対にそんな事はさせません。カーラ先生だろうと陛下だろうと誰だろうと、私の命に変えても絶対にそんな事はさせない。絶対ですから。あたっ・・・。何をするんですか先生。」
 興奮していたシモーヌはカーラに小突かれて少しだけ冷静さを取り戻す。
「落ち着きなさい。・・・まったく、私が子どもの間引きなんて事、好き好んですると思っているの?」
 ため息混じりにそういったカーラはシモーヌの耳元に顔をよせて小声で囁く。
「いい?私の見立てでは、貴女のお腹の中に居るのは、男の子一人と女の子一人。どちらを選ぶかは貴女に任せるわ。」
「やっぱりそういうつもりなんじゃないですか!嫌で・・・むぐ・・・。」
「落ち着いて最後まで話を聞きなさい。大声出して、万が一誰かに聞かれでもしたら面倒な事にもなるかもしれないんだからね。・・・わかった?」
 コクコクと頷くシモーヌを見て、カーラはようやくシモーヌの口元から手を離した。
「貴女が選ばなきゃいけないのは、男の子と女の子。どちらを手元に置くかってこと。」
「どういう・・・事ですか?」
「立場的にも世論的にも、皇族が不吉とされる二人を手元に置いておけないのは理解できるわよね?だから一人は生まれてすぐに誰か信用のおける人に預けるの。結局一人を遠ざけることにはなってしまうけど、それでも殺してしまうよりは全然良いでしょう。出産は私とリィナの二人で行って、貴女が産んで私が取り上げたら、すぐにリィナに連れ出してもらう。」
「・・・・・・。」
「これがわたしがしてあげられる精一杯のこと。辛いとは思うけど、解って頂戴。」
「・・・大丈夫です。それで十分。ありがとうございます先生。」
 シモーヌはそう言って笑うが、笑った彼女の目元からは涙がこぼれ落ちた。
「あれ?おかしいわね。二人共生きられるのに。私何で泣いているんだろ。」
「・・・シモーヌ。我慢しなくていいわ。辛い時は、ちゃんと泣きなさい。ただし、泣き終わったらちゃんと考えるのよ。」
「はい・・・。」