僕の奥さんの話なんですけどね
その日の晩飯は、ハンバーグだった。
息子はデミグラスソース、僕は昔ながらの
ケチャップとソースを混ぜて少し甘くしたソース。
息子はもう社会人になり近所で一人暮らしをしているので
ほとんど家には帰ってこない。
前日の睡眠不足が祟り、口数少なく食卓に向かっていると
奥さんもなぜか無口にハンバーグを口に運んでいた。
「テレビ、つける?」
「面白いの何もやってないよ」
スイッチを入れると奥さんの言うとおり
「婚外恋愛」の再現ドラマの途中。
「最近、こういうの多いね」
「うん」
「一生懸命働いて、留守中浮気されてたら許せないな」
「なら、旦那も浮気すればいいんじゃない?お互い様だよ」
いつもの僕の大好きな奥さんはこんなこと口が裂けても言わない。
何かが違う。
僕の奥さんに悪魔が降臨した。
明らかに喧嘩を売ってる態度だ、僕は更に無口になり
ため息をついた。
つ、つかれる…。
奥さんは夕飯を済ませると先に部屋に入ってしまった。
僕もイライラしていたし、つい偉そうに言った。
「ワイシャツ、もうないよ! またアイロンしといて!」
「あとで…」
「後でとか言って……」
ブツブツ言っていると奥さんが部屋から出てきたかと思うと
僕の部屋にスタスタ入って
「まだ3枚もあるじゃないっ!」と
キレタ…。
「明日はクレリックを着たいんだよ!」
「ワイシャツワイシャツって! お手伝いさんじゃないんだよっ!」
僕は奥さんの顔を見て驚いた。
綺麗に化粧をしていたんだ。
そして、いつものバッグを持って、ブーツを履いて出て行った。
奥さんが家を出ていったのは初めてだ。
計画的家出か…。
彼女の実家はすぐそばだが、夫婦ゲンカをしても
一度も帰ったことはなかった。
「夫婦喧嘩で家出したってどうせ戻るんだから
家出した分、あなたが悪く思われるだけ」と言ってくれていた。
ただ、子供がハタチになったら絶対離婚するっ!と
前々から離婚宣言はしていた…。
子供はもう23歳、宣言のタイムリミットは切れていた。
僕は、奥さんの実家に電話をすることもできず、
その夜は一睡もできなかった。
2夜連続で寝不足か…
奥さんは朝になっても帰って来なかった。
今日はどこで昼寝しよう。
作品名:僕の奥さんの話なんですけどね 作家名:momo