僕の奥さんの話なんですけどね
僕には何の趣味もなかったから
夕飯を食べたあとはリビングで一人
録りためてあるドラマを見てゴロゴロする。
僕の奥さんは自分の部屋でパソコンを叩いている。
何をしているのかは見たことがないが
視力が2.0あるボクが部屋の入り口から覗いた時に
パソコン画面を見られないような向きにパソコンを
置いているのは、僕にだってわかる。
毎晩、随分夜中遅くまで起きているようだ。
僕の奥さんは、僕の携帯電話も
僕の財布の中身も見たことがない。
「見ない」それが彼女のポリシーらしい。
彼女は頑固だが色々とポリシーがあり
頑固ななだけに決めたことは忠実に守りぬく。
僕は時々彼女の携帯を見たりしているが
アナグロ人間の僕は、携帯電話ですら
難しい取り扱いはできないから
着信履歴とか発信履歴しか見れないのだ。
そして、彼女の財布の中もたまに見たりするが
札は揃えて入れないし、レシートもグチャクチャ。
あんなんじゃ、金を落としても気がつかないんじゃないかと思う。
僕の奥さんは、がさつで大雑把なのだ。
「ねえ、これから毎晩、寝る前にギュっと抱きしめて」も
しばらくすると面倒になり
奥さんに声もかけずに部屋へ入ると
奥さんがすぐに追いかけてきて
「寝るの? じゃあ、ギュッとして」と甘えてきた。
「なんでこれするの?」と、僕。
「嫌いにならないように」と、僕の奥さん。
「大丈夫だよ、嫌いになんかならないよ」
「…はぁ? 私がだけど」
僕が浮気でもするんじゃないかと不安がってるのかと思っていたのに
とんでもない言葉が帰ってきた。
その夜は、なかなか寝付けずに
何度も足音を忍ばせて
僕の奥さんが夜中に何をしているのか
様子を伺っていたので
すっかり寝不足になり
翌日は、全く仕事にならず
大型電気店の長椅子で眠り込んでしまった。
作品名:僕の奥さんの話なんですけどね 作家名:momo