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こんな日はキミに愛の詩を

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夕暮れも優しい風が吹いていた。
出先の帰りに見た眩しいくらいの真っ赤な夕陽は、久々に命を感じるほど美しかった。
仕事帰りの足取りも 軽く感じたのは、仕事の所為だけではないだろう。
キミが、ボクの帰りを待っているだろうと思う気持ちが、そうしていた。

部屋の前に立ち、ポケットから鍵を取り出し、鍵穴に向けたが、一旦手を止めた。
呼び鈴を押したら、モニターのランプが点き、キミが向こう側からボクを確認して、飛び出して来てくれはしないだろうかと考えた。
飛び出しては、来なくても おかえりなさいと微笑んでくれるだろうか。
それとも、ボクとわかっていながら はい、どちらさまですかとインターフォン越しに声を聞かせてくれるだろうか なんてあれこれと考えたが、ひとりほくそ笑んで鍵で錠を開けた。
部屋の中は、静かだった。電気すらついていない。
部屋をぼんやりと見せているのは、カーテンの開いた窓からの外灯の所為だった。
キミが、いない。
待てよ。もしかすると、何処かに隠れて ボクを驚かそうとしているのではないだろうか。
ボクは、靴を脱ぐと、声はもちろん、息までも潜めて 部屋へと上がった。
手前の洋間を覗くが、キミはいない。使わないハンガースタンドに掛かったジャケットはキミには見えないほど、よれよれとぶら下がっていた。
トイレのライト確認の小さな硝子は、暗いままだったが、そぉーっと開けてみたが キミはいなかった。
洗面所と浴室を覗くが、隠れるところなどなく、居ないことは、一目で明らかだった。
キッチンにも リビングにも キミの気配がなかった。
ボクの肩は、一気に疲れを感じたように 重くがっくりと落ちてしまった。
ただ、朝キミと過ごしたテーブルには、キミの笑顔の記憶と手帳をちぎった紙切れ……
『おかえりなさい お仕事おつかれさま』と 書かれてあった。
そして、ボクの鼻先に 腹の主(ぬし)を誘うようないい香りが漂ってきた。
ボクの好物の鶏の唐揚げと器の下に挟まれたメモ書き『サラダとビールは冷蔵庫ね』に嬉しさが込み上げた。なのにキミが居ないなんて、一番のがっかりだった。
作品名:こんな日はキミに愛の詩を 作家名:甜茶