こんな日はキミに愛の詩を
朝、目覚めた白いシーツは、ボクの寝姿を残して幾つもの波を作っていた。
きのうは 久し振りに 白い雲の形が青い空にくっきりとわかるくらい晴れた暖かな陽射しの日だった。キミは、朝からやってきて ボクを起こすと 布団カバーもシーツもピローケースも外し、両手に抱えて洗濯機へ放り込んだ。
キミが、買って来てくれたその朝焼いたばかりのクロワッサンと牛乳たっぷりのミルクティーを出してくれた。
ボクの食べているのをキミは見ているだけ、テーブル越しに居るキミの笑顔はサラダの代わりのビタミンのようだった。
ボクが朝食を終え、着替えが済んだ頃、洗濯機が、仕上がったブザーを鳴らした。
キミに任せてもいいのかいとキミを見たボクに 小さく首を一度傾げて 任せてといっているようにキミは目を細めて口元を緩ませた。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
胸元で 掌をボクに向け小刻みに振るキミに見送られ、ボクはキミに背を向けドアを出た。
そのままボクは、仕事に出かけてしまったから、ボクが帰って来るまでのキミのことは、わからない。
通勤のボクは、いつもより早く起きたのに何だか気分はすっきりとしていた。
朝からキミに会えたこともその一因であることには違いないが、ボクが真似ても いつも旨くできないミルクティーをキミが出してくれたのもあるだろう。
美味しい朝食は、一日頑張ろうという気力を作るように きのうのボクは、納得していた。
ふと、駅のポスターを見て、ボクは大変な忘れ物をしたことに気付いた。
だが、もう引き返す時間は残っていない。
キミに 行って来ますの……いってらっしゃいの……キスを忘れていた。
それだけが心残りだった。
しかし、本当に順調に仕事が進んだことは、偶然とはいえないほどだった。
作品名:こんな日はキミに愛の詩を 作家名:甜茶