そらのわすれもの
知秋はアパートに入るとポストに向かった。ポストの確認は忘れない。双子の妹の知春が手紙を待っているのだから。ポストの中には1通の青い封筒が入っていた。知秋は、それを大切そうに鞄にしまう。その青い手紙は、妹の知春が外との繋がりを持てる唯一のツールである。それを彼女に届けるわけだから、責任は重大だ。無くしてしまうわけにはいかない。
玄関に辿り着くと、誰もいる気配のない部屋のスイッチを入れる。
0.5×2人生活も大分馴れた。
馴れたけど、なんだか満足がいかない。
満足のいかない理由なんて本当は分かってる。だけど、完全に無視。そこを追及したら、きっと自分はダメになる。
負けたくない。負けるもんか。
いつだって、彼女の欲しい物は手から簡単にこぼれ落ちた。こぼれ落ちたものにすがって泣いていたら、身が持たない。だから、絶対に後ろなんか振りかえるものか。そう知秋は決めていた。
勢いよく知秋は制服を脱いでベッドに投げつける。
机が2人分。
タンスが2人分。
ベッドは1つ。
テーブルには筆談ノート。
本棚にある写真は伏せられている。
カレンダーには日没時間が小さくて綺麗な字で書き込まれている。
それを知秋はぐるっと眺めるとうんざりしたように溜め息をつく。
「一人暮らしの部屋じゃないわな…。」
そう呟くと、知秋はテーブルに手紙を置いた。それを暫く見詰めてから、筆談ノートに手を伸ばした。
「知春へ…元気にやっているよ。本当にわがままを言って悪い。知春は、竜也が好きなのに…。」
知秋は、そこまで書いてノートを閉めた。
「あー…やっべ、あたしブラとパンツじゃん。」
誰も聞いていないのに、あえて知秋はノートを閉める言い訳を口に出した。【涙でノートを汚すから書くのを中断させたわけじゃない】と言わずにはいられなかった。