そらのわすれもの
知秋は人間じゃない。
天野知秋は、人工的に生まれた空の精霊である。
天野竜也が魔法を使うのに媒体とする精霊だった。
それを知らずに彼女は、小学3年生まで過ごした。
竜也は、自分の父親だと信じ込んで。
あの頃の知秋には、
お母さんはいなくても、
夜の記憶は無くても、
大好きな竜也がいた。
愛されていると思っていたから、
幸せだった。
お日様がきらきら輝く世界で彼女は元気に笑っていた。
だけど、そんな夢のような生活は8年しかもたなかった。
学校のプールの帰り道。
知秋は、自転車を漕いでいた。
前へ進みたくて
前へ進みたくて
あまりにも勢い余った知秋は、車に接触をした。
次に知秋が意識が戻った時は、竜也が書いた魔方陣の上だった。病院にはついぞ連れていかれなかった。
彼女は、現実を知った。
彼女にお母さんがいなかったのは、元からいないから。
彼女に夜の記憶がなかったのは彼女の人格が昼間のものであり、知春に夜はチェンジをしていたから。
竜也はお父さんじゃなかった。
こうして知秋が信じてきた世界は簡単に崩れた。彼女はそれに対して酷く嘆き悲しんだ。
でも、それすらも彼女のセンチメンタルな考えで、恐らくはそんな世界は初めからなかった。