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SFファンタジー 『異説・人類の起原』

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  天井を見上げると瞬時にドームが溶暗し、プラネタリウムのように満天の星空が現われた。またも突然、宇宙空間に放り出されたような錯覚に、再び全身の筋肉を硬直させる。
  床面10mほどの壁面360°全周は、地球のあらゆる地域をカバーするモニタースクリーンになっているらしく、細分された画面にそれぞれの映像が映し出されていた。
  突然、アダムの正面にスポットライトが点り、そのライトの中にユメで見た人物が現われた。10mほどの距離で同じように中空に浮いている。
≪アダムよ、よくぞ参った。汝、アダムはこれよりこの地球にて、人類の始祖として天寿を全うしてもらいたい。よいな!≫
  「あ・あ・あなたはどなたですか? い・い・いきなりそんなとてつもない話をされても・・・。それより出来ることなら、元の世界に帰していただけませんか? 身体も前のままの老体に戻して結構ですから。イヤ!若いままだと僕が戻る場所がありませんので・・・」
≪ダメだ!帰すことは出来ない、諦めなさい。昨夜のユメは、汝に予備知識を授けるためのものである。汝には真実を語ろう。
余は、アンドロメダ星雲の一惑星から派遣された、人工生命体である。生命が誕生する可能性のある惑星に留まり、その進化を見守る使命を受けておる。
時限を限り、新種の生命に進化の見込みが無いと断定した時は、余が介入して天変地異を引き起こし、その種を絶滅させる。そして次の新種の誕生を待つ。
実は余自身、与えられた任務達成のために自らの知能・機能を進化させることが出来る。今回新たに設置した異次元空間ゲートを通して、汝アダムが転移してきたわけである。
汝の知能指数は現在5段階目にある。これより何世紀に亘るか分からぬが、もし無事に精神面での進化を続け、10段階まで指数を上り詰めた時、初めて全宇宙人の同胞として迎え入れられよう。分かったな!≫
  「ウーン、話された内容については、おぼろげに分かりました。これが現実としたら、そして選択の余地が無いとしたら承諾するしかないですね。しかし、僕一人では肝心の子孫を残せませんが? どうするんですか?」
  ゼウスと名乗る人工頭脳が、『ニヤリ』と笑みを浮かべる感覚が伝わってきた。
≪よくぞ申した。汝の首に吊るしたロケットの中に、最愛の者の髪の毛が入っているであろう。僅かな長さでよいから、切り取りこの容器に入れなさい≫
  言われた瞬間、アダムはそのロケットを両手でしっかりと握りこんでいた。目の前に溶液が満たされた試験管が現われた。彼は言われるままに、イブの髪の毛の一部をそっと試験管の中に落とした。1cmに足りない髪の毛が液体の上に浮いていた。

第8章 永遠の生命

  ≪イブの髪の毛を預かる。それから、先程汝に申し渡した、人類の始祖としてこの地にて天寿を全うせよという件じゃが、もう一つ汝に課せられる条件がある。それは、汝が永遠の生命を授けられるということ。これは寿命が尽きる者にとっては、限り無い幸運と思われるかも知れないが、生者必滅の世界で生き続けなければならないことは、逆に苛酷な試練となるかもしれん。よいな!≫
  「いや、突然そのような破天荒なことを言われても、即座には返答しかねます。しばしの猶予を頂きたい」
  ≪慌てるな!落ち着いて余の話を聞くがよい。汝の今の姿のまま、不老不死を授けるわけではない。この地球での摂理に従い、年々齢(よわい)を重ね年老いていかねばならない。そして、汝の寿命が尽きる時、誰もが共有する<死>の瞬間を迎える。しかし、汝に限ってその瞬間、別の新しい生命が与えられるのだ。永遠の生命とは<誕生と死>その繰り返しになる。
何故そのような定めを与えるかというと、汝には人類の始祖と同時に救世主にもなってもらいたいからじゃ。
  これより汝の末裔が、この地から全世界に広がっていく。数多(あまた)の民衆は心迷える民となり、真の道を求めて支えとなる救世主の出現を待ち望むであろう。いつの世にあっても、いかなる地においても、汝は姿こそ変われ、現世(うつしよ)の救世主として、迷える人類の進むべき道を正しく導いて欲しいのじゃ。余の申している意味が分かるであろう?≫
  「な・な・なんと!僕にキリストや現人神になれと?そんな気高い聖人君子などになれるわけがありません!無理難題というものです。それに死の苦しみを体験するのは一度だけで充分です」
  ≪フフフフ・・・、心配には及ばぬ。常に余が汝の傍に付いておる。但し、この地球が余の力に支配されていることは口外無用である。もっとも、汝がいくら余のことを暴露しようとも、その話をまともに信じる人間は一人もいないだろうが。気の触れた者以外はな。また汝も自らの末裔の進化を見守り、行く末をしっかり見定めることが出来るというもの。よいではないか?汝の心配している死の苦痛からは解放して進ぜよう≫
  「なんでこの僕が、よりによってこんな運命を背負わなくてはならないのか。この世界に迷い込む前に、二度も引き返すチャンスがあったのに・・・。とにかく僕には荷が重過ぎるとおもいますよ」
  ≪何を申す。余は決して不可能な条件を押し付けるわけではない。余は汝自身より、汝の深層心理に潜む願望や性格・性情を完全に掌握しておる。これまで汝が生きてきた世界で、若き頃より常にグループのリーダーシップを取ってこられたのも、しっかりした道徳官が齎す品行方正さも、すべて汝の資質の発露である。言い換えれば、余の提案こそ汝自身のユメの実現と言っても良いだろう≫
  「エーッ! そんな、信じられない・・・。僕にそんな大それた願望があるなんて・・・」
  ≪これで本日の会見は終了する。それでは1週間後に、再び湖の桟橋まで参るがよい。その折は、向こうの世界から持ち込んだ全ての持ち物を持参しなさい。約束は絶対に遵守すること。よいな!≫
  ゼウスの言葉が終わるか終わらないうちに、アダムは湖の桟橋に立っていた。周りの景観になんの変化も無かった。
  彼の運命の激変に対する戸惑いに、納得のいく明快な回答は得られなかったものの、今自分が置かれている立場は、なんとか理解することが出来た。
  新しい地球で人類の始祖となり、あまつさえ幾つもの時代に生を受け、人類の救世主となり、心迷える民衆を救い導く大役まで担うことになるとは、とんでもない運命の悪戯である。
  そして、その前途多難な未来に思いを馳せた時、自分に課せられた責任の重大さに、途方に暮れるアダムであった。
  それよりなにより今直ちに、これからの衣食住を確保するための思案をしなければならない。靴を履き、ザックを背負ったアダムは、まず今宵の野営地の選定にかかった。

第9章 実在したエデンの園

  清爽感の漲る湖畔、緑明るくユリの花咲く白樺林など、踏み跡を縫うように歩き廻る。次々と新しい発見があった。
  南斜面一帯に、まるで果樹園とも思えるほど、いろいろな果実がたわわに実る楽園が見つかる。湖に程近い岩壁には、これまでに見たことも無い、住み心地が良さそうな岩小屋を確認した。どれもこれも『ゼウス』の絶対的な力添えが感じられた。あとはゼウスの好意を、アダムが如何に有効に活用するかが焦点となる。