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SFファンタジー 『異説・人類の起原』

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  初夏の新人歓迎合同合宿の第一日目、新人自己紹介の場で立ち上がったイブを一目見た瞬間、僕は電撃を受けたような衝撃を受けていた。それまで女性には一切関心が無かった僕が、初めて知った一目惚れだった。
  まず、肌の白さが際立っていた。ミズバショウやヤマユリにも優る白さ。瓜実顔に目鼻立ちが整い、長い髪をひっつめにまとめてポニーテールにした横顔は、まさに生けるビーナスのように神々しかった。
  その夜、柄にもなく星空が見たくなった僕は一人、山小屋の前に佇み夜空を見上げて、物思いに耽っていた。
  「お星さまをご覧になっているのですか?」
  女性の声で突然の問い掛けに、僕が驚いて振り返ると、夜目にも白くイブの笑顔が闇の中に浮かんでいた。
  「ウン、見てご覧。今までにこんな星空見たことあるかい?」
  「ウワーァ! 見事なお星さま! 星の数ってこんなにたくさんあったんですねー。それに手を伸ばせば届きそうに見えるわー」 イブの素直な感動ぶりが嬉しかった。
  「都会ではこれだけ鮮明な星の輝きは、絶対に見られないからね」
  「何か星座を教えて頂けませんか?」
  「そうだね、北斗七星を教えて上げよう」
  「北斗七星! 聞いたことあります!」
  「北斗七星は星座じゃぁないんだけどね。おおぐま座の熊の胴体と尻尾の部分を形づくっていて、春夏秋冬いつでも見られるんだよ。柄杓の形をしているから探しやすいし、僕達は子供時代からお馴染みなんだ」と言いながら、北の空を指差し、  「あの大きくひときわ明るい星が北極星で、その上の方にホラ見えるだろう? あれが北斗七星だよ」と指先を天頂方向にずらしていく。
  身長差が20cm近くあったイブは、なんの躊躇いもなく僕の肩に手を置き、背伸びをして僕の指先の延長線をしっかり見定めようとしていた。僕はそっと膝を折り背丈を合わせてあげた。
  フッと僕の鼻孔をくすぐるように清純な香りが漂い、反射的にイブに目を向けると、もう完全に頬と頬が触れ合うばかりに接近した彼女の、真剣な横顔がそこにあった。
  なんの警戒心も無い純真無垢な彼女の態度が、好意を抱いた僕の心に、更に強力な魔法をかけてしまったようだ。キュンと胸が締め付けられるような、切ないトキメキは生れて初めての感覚だった。
  「アッ! 判りました! 柄杓の形をした北斗七星が!」
  イブの明るく弾んだ声が・・・。
  その日を境に、山が恋人と公言していた僕は、まるで人が変わったようだ。今までの岩壁征服一途の目的に、イブへのアプローチが加わった。
  昔から“二兎を追う者は一兎をも得ず”なんて俚諺があるが、当時の僕は幸いそんな俚諺を軽く吹き飛ばすほどの、若さと強運の持ち主だった。
  僕の強運はそのまま、山での遭難死をも免れ、イブとの愛の巣を営む幸運にも恵まれることになった。二兎を確実に我が物としていた。

  星空の中に、遠い昔の懐かしい想い出を重ね合わせていたアダムは、その夜空に何となく違和感を感じていた。
  星座の確認と同時に帰還の希望が生じて、嬉しさから回想に気を取られ、その違和感を深く追求せずにいた彼の目に、しずしずと昇りくる衛星ルナが映り愕然とした。
  なんと今までこちらの夜空には、衛星が一つも存在しなかったなんて。彼はこのいたって明白な事実を、違和感だけで片付けていた迂闊さに腹が立った。
  元の世界には、ルナ・リオ・レン・ラクと4つの衛星があり、上空には常に2個の衛星が存在していた。反してこの世界には、衛星が全く見られない時間帯がある。これは、折角生れかけていた帰還という望みを、完膚なきまでに打ち砕く決定的な証だった。
  この世界は、元の世界とは全く別物の世界だった。今昇ってきた、たった一つだけの満月が、皓々と周囲を明るく照らしていた。

章タイトル: 第5章 睡眠学習

  アダムは体力温存のため、就寝態勢にはなったが、眠るつもりなど毛頭無かった。しかし、落胆のあまり目をつぶった途端、猛烈な睡魔に襲われていた。そして長ーい一夜を通して、摩訶不思議なユメを見ることになる。知的生命体の念力干渉による睡眠学習だった。
  最初にユメの中に現れたのは、まるで古代神話から抜け出してきたかのような衣装をまとった人物で、口をキリリと真一文字に結びながら、声だけが明瞭に伝わってくる。
  ≪余は万能の神『ゼウス』なり。当実験惑星“地球”によくぞまいった。汝はフロンティア・スピリットとして選ばれし者。汝らホモ・サピエンスは、知能指数10段階中5段階目に相当する頭脳の持ち主である。今よりこの地球を汝の手に委ねよう。期限は地球の化石燃料埋蔵量から5000年とする。汝の末裔どもが、どんな進化を達成するか、或いはトカゲ脳の挑発に負けて、自滅の道を歩むか、じっくりと高みの見物をさせてもらおう。なお、好奇心旺盛な汝のために、これまでこの地球で行われた実験の数々を見せるとしよう≫
  知的生命体にとっては、自らを万能の神に位置付けるのも、共通の言語を駆使することも、アダムの知能・知識をそっくり吸収し、解析済みであれば造作もないことであった。
  場面が変わり、無人の宇宙船コックピットが現れ、正面の大型スクリーンには今まさに、一つの惑星大気圏に突入する画面が映し出されていた。不思議なことにアダムには、その全てが理解出来るのだった。
  そして、地表への高速降下からソフトランディングまでが、克明に伝わってきた。これぞ<天孫降臨>の真実だった。
  次いで惑星大改造が断行され、地球最古の原始的生命が誕生する。三葉虫やオウムガイの他、多くの無脊椎動物が爆発的に出現する。旧古生代最古のカンブリア紀から、新古生代の脊椎を有する魚類に発展し、やがて両棲類となって陸に上がる過程が、走馬灯の如く展開された。
  なかでも、中生代の三畳紀に陸上で栄えた大型爬虫類の一群、恐竜時代の映像は圧巻だった。その恐竜の栄華も、白亜紀末には絶滅の運命にあった。
  絶滅の原因は、<万能の神>の気紛れからとしか言いようがなかった。弱肉強食だけに終始して、進化の兆しを見せない恐竜属に愛想を尽かした?神は、突然実験中止の断を下したのだ。或る時恐竜は、この地球上から忽然と消滅した。そして一部の恐竜は、化石として地中に残された。

第6章 第1日目・至福の朝

  夢の中の膨大な時間の旅は、一瞬にすぎなかったのか?爽やかな気分の目覚めだった。まだ天空には星の煌めきが残っているが、東とおぼしき方角はうっすらと白みかけて、黎明が近いことを感じさせる。
  防寒具に身を包んでいても、ブルブルッと身震いが出るほどの冷気と、荘厳な夜明けだった。空には明けの明星が際立って輝いていた。
  足元から地平線の彼方まで、雲海が際限なく広がっていた。大小の白くて丸い綿の塊りを、びっしりと敷き並べたような、反して不動の様は堅固な重量感まで感じさせる。
  一晩のうちに地殻変動でもあったのか、昨日は確かに無かったはずの岩山の天頂だけが、雲海から島嶼の如く二つ三つと浮かんでいる。背後の闇の中には、更に黒々とした三角錐の岩山が、屏風のように聳え立っていた。