十七歳の碧い夏、その扉をひらく時 <第二章>
白崎からメールで通知があった。オフ会を開くから、四人で集まろうという話だった。場所は所沢駅前にある「ザ・トリップマン」という妙な名前のカフェ。トリップなんてドラッグの密売でもおこなわれていそうな雰囲気だが、白崎のメールによると知る人ぞ知る絶品のチーズケーキを出している店らしい。
「雪の降る日のチーズケーキ」という情緒たっぷりな名前のチーズケーキを注文し、ゆっくりと口に入れながら、俺はただひたすらケーキの旨さを味わっていた。舌の上でしゅわしゅわと溶けていくチーズのほのかな酸味とホワイトチョコレートの甘い香りがふわりと鼻の奥をくすぐる。くどい甘さは感じられないし、それでいてあっさりしすぎてもいない。なるほど。白崎が“絶品”と表現するのも理解できる気がした。
「めっちゃ旨いケーキ出してんのにもったいないなぁ。こんなダッサイ名前で」
黒野がしみじみとした表情で首をひねった。
「何よ。ここの名前のこと?」
「ザ・トリップマンなんてギャグやろ」
「ギャグ? 随分と失礼ね」
「いや、正直なだけや。俺はいっつも真っ直ぐやからな」
「アタシがここの名前考えたのよ」
「ふぇ?」
「間抜けな声出さないでくれる? オーナーとは親友なの! トリップっていうのはチーズケーキを食べるとトリップするぐらい美味しいってところから取ったのよ」
「ふ、深い……」
大が感心したように深く頷いた。
「でしょ? 大ちゃんならわかってくれるわよね」
「もっとカッコエエ名前があるやろが」
黒野は不満そうな声をあげた。
作品名:十七歳の碧い夏、その扉をひらく時 <第二章> 作家名:朝木いろは