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朝木いろは
朝木いろは
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十七歳の碧い夏、その扉をひらく時 <第二章>

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 ドアの方から鈴の音がして、黒い皮ジャンに細身のジーンズを履いた二十代前半の茶髪の男がカフェに入ってきた。三白眼で鼻が高く、頭の良さそうな雰囲気を醸し出している。しかも百九十センチはあろうかというほどの長身だ。いかにもフレンドリーそうなこの男は、片手を軽く上げながら笑顔でこちらへ歩いて来た。
「もしかしてニックネーム“ドクターS”? たしか医学生の……」
 白崎は椅子から素早く立ち上がり、ぎこちない笑顔を作って言った。
「そうや、T大の医学部に通ってる。本名は黒野 修也(くろの しゅうや)や、よろしくな」
 黒野は早口で関西弁を喋り、なれなれしい態度で俺の斜め向かい、つまり白崎の隣に腰を掛けた。席に着いた途端、白崎が「関西出身なん?」と親しみを込めた言い方で黒野に聞いた。「そう や。アンタもか?」と黒野。
「ちゃうちゃう、静岡生まれの静岡育ち」
「じゃあなんで関西人みたいに喋るん?」
 黒野の質問は的を得ている。俺もちょうど同じことを思っていた。
「うふふ、アタシって影響されやすいのよ」
「はい?」
 俺は思わず間の抜けた声を出した。
「アタシね、沖縄旅行に行った時は沖縄語を喋ってたし、京都に修学旅行に行った時は京都弁だったわよ。そうそう、北海道にスノボ旅行へ行った時も北海道弁を喋ったわ。『なまら寒ぅい』とか。あ、違う『なまらしばれるぅ』だったわ。北海道民に直されたのよ」
 白崎はひとりでベラベラと句読点なく話し続けた。
「おもろいオカマやなぁ」
 黒野は腹の底からくっくっくと笑った。
「あのぉ、何も頼まなくて宜しいんですか? お水だけで長居っていうのも……」
 大が額に汗を掻きながら、おずおずと申し訳なさそうな声で言った。
「あ、忘れてた。マスター、いつものパンケーキ四つ」
 白崎はカウンター越しに立っているマスターに声をかけた。