十七歳の碧い夏、その扉をひらく時 <第二章>
「足の傷だいぶ良くなったね」
四十代前半くらいの外科医が、俺の足首を触りながら言った。
「もう来なくていいですか」
「そうだね、抜糸後も順調だし」
俺はホッと胸をなでおろした。
「ここに来るのは嫌かい?」
「雰囲気がどうも……」
俺は適当な言葉で誤魔化した。実際、病院が好きな奴なんて滅多にいないだろう。消毒液のツンとした臭いを嗅いでいるだけで食欲が失せてしまう。
幼い頃はよく病院へ来ていたように思う。父親が俺たちを捨てた後、母さんは三回男を作った。一人目の男が去って行った後、母さんはしばらく神経衰弱になって心療内科に入院をした。二人目の男には身体に暴力を振られて、何度か病院に通院していたことがあった。そして三人目の男には言葉の暴力で痛めつけられ精神的に限界に達したのか、ついには自殺未遂を起こし救急搬送までされてしまった。俺は自分のことで入院をしたことは一度もない。病院へ来るたびに思い出すのは、あの頃のおぞましい記憶と母さんの弱った姿だった。
作品名:十七歳の碧い夏、その扉をひらく時 <第二章> 作家名:朝木いろは