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朝木いろは
朝木いろは
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十七歳の碧い夏、その扉をひらく時 <第二章>

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「でも片桐君はひどいよ。私の気持ちなんて無視してる」
「気持ち?」
「ほら、名前でも呼んでくれないし」
 未咲はプイっと顔をそむけた。
「おい、むくれんなよ」
 未咲の行動があまりに子どもっぽくて、少しからかってやりたくなった。
「一ノ瀬」
 未咲は向こう側を向いたまま返事をしない。
「一ノ瀬さん」
 まだ無視をしたままだ。
「そんなにむくれてるとブスになるぞ。ほっぺが膨らんだまんまリンゴみたいな顔になってもいいのかよ」
 未咲は急に俺の方に向き直って、顔を真っ赤にして言った。
「リンゴって何よ」
「ほら、その顔だよ。怒ってばっかりいると眉間にシワが寄るぞ」
 俺は未咲のシワが寄っている部分を人差し指でそっと押さえた。未咲はふいに触れた俺の指に、困惑したような顔を浮かべた。
「未咲ちゃん」
 俺は耳元でそっと囁くと、未咲の頬に自分の唇を当てた。まるで苺大福のもちもちした皮に唇が触れた時のような感触が伝わってくる。
「なんか大福みてぇだな」
 俺は思ったことをそのまま口に出した。
「え?」
「お前のほっぺた」
「ヤダー」
「なんでだよ」
「大福ってなんか……可愛くない」
「は?」
「他にもっとないの?」
「ない。絶対に苺大福だな」
「それって褒めてるの? けなしてるの?」
「さあね」
「なんかわかりにくい」
「そういう性格だから」
「じゃあ和菓子と洋菓子ならどっちが好き?」
「洋菓子かな」
「苺大福とイチゴのショートなら?」
「断然ショートケーキ」
 未咲はショックを受けたような顔を浮かべ、歩いていた足を急に止めた。
「意地悪ばっかり」
 未咲は俺の背中を小さく一回叩いた。
「片桐君なんて嫌い」
 未咲は白い制服の裾をふわりと風になびかせながら、急に歩を速めた。
「どこ行くんだよ」
「もう帰るの。今日のデートは取りやめにしたから」
 取りやめる? そんなことは俺が許さない。
「捕まえた」
 後ろからぎゅっと抱きしめた。離れようとして体をねじる未咲をさらに強く抱き寄せる。
「苺大福は俺の大好物だよ」