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30年目のラブレター

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崩れていく砂の城




翌朝、キッチンでコーヒーを淹れていると
夫が起きてきて、私をドキリとさせる話をした。

キッチンのカウンターの向こうで
夫が白いブラインドを開けながら言った。

「おはよう。昨日、嫌な夢見たよ」

「どんな夢?」

「言わない」

夫がそういう時は、だいたい私が浮気した夢だ。

「気になるじゃない、教えて」

コーヒーをマグカップに注ぎながら
少し動揺した。

「キミの高校2年生くらいの時の彼氏が」

「え? なにそれ」

私の心の動揺は、隠しきれただろうか
何の証拠も残していない、バレるとしたら
盗聴器くらいしかない。
一瞬のうちに色々なことが頭を駆け巡った。

「その、高校生の時にキミに子供が出来てさあ、産んだんだけど
まだ高校生だからって、家族全員で隠して…」

「何それ?」

よくできた夢だなあと、感心した。

「最初、頭に来て怒ってたんだけど、
かわいそうになっちゃってさ、
会ってるの? って聞いたら、何度か会ってるって」

この人の感はすごいなと、感心しつつバレていないことに
ホッとした。

「なにその夢」

私は笑ってごまかし、コーヒーを覚ますふりして
フーと息を吐き出した。

夫にバレずに外出する方法を
いくつも考える。

玉ねぎを切りながら、寛貴のことを考える。
湯気の上がる鍋を見ながら、寂しくしてないか
心配になる。

夫が出かけて、一人になった広い部屋で
音のない世界に迷い込むと
彼と夜に紛れて彷徨うことを想像し
鎖骨が震える。

何度も寛貴に電話をかけようとしては
ためらい、一日が終わる。

子供は成人して家を出たし、
私たちは、もう何年も前から
セックスレスだったにもかかわらず
何年かぶりだね、と試してみたら
もう夫はできなかった。

なんでも私任せの夫、かといって会社人間でもない。
なんでもかんでも、ただめんどくさいと
私に任せる。
口だけは達者で、怒り出すと終わらない。
最初からそんな人だった。

セックスもできない男と
あと何年も一緒にいるのだ。

年金の話で盛り上がる旦那に
すでに男の魅力は感じなくなっていた。

陽のあたる、オレンジ色した暖かなリビングルームは
深い湖のそこのような冷たい色に変わって
寒くて、暗い闇に飲み込まれそうになる。

それが私の望みではなかったはずなのに…。

作品名:30年目のラブレター 作家名:momo