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30年目のラブレター

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こころ揺れて




「寛貴、もう結婚したと思ってたよ」

「お父さん死んでから、誰とも付き合ってないよ」

「ほんと?」

「うん、それどころじゃなかったし、精神的にもね」

「そっか……」

「そういえば、携帯に電話したんだよ」

「あ…電話番号変わったから」

寛貴の携帯の番号は変わっていなかったが
新しい携帯に彼の電話番号は登録しなかった。

「ねえ、あのアドレスの意味、なんだっけ?」

「ふふ……なんだっけ?」

彼のアドレスは私が考えたアドレスだった、もうとっくに
変えたと思っていたが、変えてなかったらしい。
嬉しかった…。

私は外国語で、
まだ一緒にいたい…
ずっと傍にいたい…
これから愛し合う事を
意味する言葉を彼のアドレスにしたのだった。

「じゃあ、映画いく?」

「なんで映画?」

「オレ、話すのあまり得意じゃないじゃん」

「2時間ももったいないよ、話さないで済む方法なら他にもあるよ」

「なに?」

「エッチするとき、話す?」

思わず二人で吹き出した。

「今日は大胆だね」

「そうかな?」

「エッチはしないけど、死ぬまでに一度は会いたいよ」

「うん、私も会いたい」

「特別な存在だから……」

コードレス電話のバッテリー切れを知らせる
音が二人の会話を引き裂く。

もう会えないかもしれないと思いながら
私は捨て台詞のように、大切な言葉を慌てて放った。

「愛してるから! じゃあね」

彼も笑いながら「じゃあね」と言った。

きっと、相変わらずだなと思っただろう。
彼はいつも、自分が寂しくなった時だけ電話してくる。
私にはわかっている、そう、私は都合のいい女なのだ。
都合のいい女でもいいんだ。
彼を愛していることに間違いはない。

彼のお母さんが天国で笑ってるかな?
その夜は、そんなことを思いながら眠りについた。


作品名:30年目のラブレター 作家名:momo