30年目のラブレター
平凡が幸せ
5年前に寛貴の父親が亡くなった時
彼は突然電話してきた。
そして、母親が亡くなり
また電話してきた。
気まぐれなのか…
本気なのか、彼の内心は
未だにつかめない。
また何年か後、
突然、何もなかったかのように
電話してくるんだろう。
けれど今度は、誰が死んだ時だろう。
寛貴が死んだ時か…。
彼が墓から、私にまた手招きするのだろうか
こっちだよと、
いつも誘っておきながら
私の心をかきまわして
去っていく。
いつもいつも
そうだった。
私は平凡な幸せの現実に帰って行く。
彼の机の引き出しの中には
私からのラブレターが
溢れるほどで、窮屈だと苦しがってる。
もう1通、最後に30年目のラブレターを
彼に送った。
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この間はありがとう。
御馳走様でした。
短い時間だったけど
おばさんの所にも連れて行ってもらえて
よかった…
巾着も取っておいてくれて
涙出た…ありがとう。
20年の時間の流れって
すごいね…
付き合った時からずっと
30年も一番に愛するって
何なんだろうね。
笑えるよね。
おじさんも、おばさんも
遠くに行っちゃって
今、この世の中で一番に
あなたのことを思っているのは
私かもしれない…
でも、あなたの思いは
私へは向かってないかもしれない。
大きな家でひとりぼっちのあなたが
寂しくしていると思うと
悲しくて…
冷たい部屋に帰るあなたを思うと
泣きたくなる…
私じゃなんの心の支えにも
ならないけど、そばに行きたいと思ってしまう。
私と過ごす時間は
あなたにとって無駄な時間かもしれないけど
あなたと出会えたことは
幸せだったと思う。
私じゃないのは悔しいけど
愛する人と結婚して
幸せになって欲しいとも
思ってるよ。
いつも、いつも
心の中で大切に思ってるよ
ありがとね。
私が考えたアドレスの意味は
ずっとそばにいてって意味でした。
叶わなかったね…。
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彼からの返事はもちろんなく
電話も留守電設定になっている。
私は何日かすれば
元の自分に戻ることができるだろう。
ただ、今はまだ
悲しくて、苦しくて、せつなくて、
どうにもできなくて
どうにもならなくて
涙は溢れるばかりだけれど
これで良かったんだと思った。
この物語が始まった時から、小説サイトに投稿を始めた。
彼に抱かれて、彼にさらわれて
離婚する話になるのか。
彼と永遠に関係を続け
仮面夫婦のまま、不倫するのか。
こんなに短く終わるとは
思ってもいなかった。
短すぎた恋は…
今日で最終回になってしまった。
(30年目のラブレター/了)
作品名:30年目のラブレター 作家名:momo