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30年目のラブレター

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記憶の上書き



前から歩いてくる逆光を浴びた人影の中に
彼に似た人を探した。
探し続けていた。
願っていた。

気がつけばポロポロと泣いていた。

寺についたが彼は来なかった。

線香を供え、柄杓で墓に水をかけながら
おばさんに話しかけた。

おばさん、来たよ。
この間はお花も持たずにごめんね。
今日はお花もおばさんの好きなお酒も持ってきたよ。
おばさん……もう本当にいないんだね。
今日は月命日なのに、誰も来てなかったんだね
淋しいね。

2回も寛貴に会わせてくれて
本当にありがとね。

誰もいないお墓に
柄杓が墓石に時々ぶつかる音と
私の鼻水をすする音が響いてた。

お墓に喋りかける身内をよく見たことがあるが
初めて自分の口がスラスラと
墓石に話しかけていたのに驚いた。

いいな、ひとりだと
死んじゃった人とでも沢山話が出来るんだ。

あはっ、鼻水出ちゃったよ。

なんでこんなに泣いているのか
自分でも不思議になった。
彼との仲もこれで終わりだと
決心したからだろうか。

桜の湯呑も持ってきたよ。
もうすぐ春だからね。
お酒も飲んでよ、たまに電話で酔っ払ってたよね。

おばさん、今日、赤い橋、
一人で渡ってきたよ。

小さくて、真っ赤だったよ。
赤い橋、おばさんも、もう渡ることないんだね。
私も最後だと思うよ。

最後にお花を供えて、両手を合わせ
静かに拝んだ。

脱いだコートや散らかった花束の紙くずを
片付けながら、帰るのを惜しむようにおばさんに言った。

おばさん……そろそろ帰るね……。

寺の小坊主さんが塔婆の整理をしだした。

「こんにちわ」

「あ……こんにちわ、ありがとうございました」

なぜか、お礼を言ってしまった。
お参りさせてもらって、ありがとうございますって。

私は何度も振り返りながら、その街の景色を
心に焼き付けた。

最後に抱きあった
駅前の交差点をみつめ
二人の姿を思い浮かべてみた。

最後にキスした
電柱の陰で
二人のキスしている姿を
記憶した。

最後の姿を
想い出にしまって地下鉄の階段を
ゆっくり降りた。

作品名:30年目のラブレター 作家名:momo