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セールス・マン
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プリンス・プレタポルテ

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 決壊した意識をかろうじて繋ぎ合わせ、アーネストが息をついた。
「彼女に伝えてくれ、愛してると」
「分かった」
 乱暴に電話を放り出し、グレゴリオは組んだ手の上に頭を乗せた。パーティーで会う度、アーネストは違う女をつれ、自らが映画の中で演じた快活なヒーローを再現している。50を超えそうな男としては、格段に若い。娘ほどの少女を連れていても、かろうじて許される容姿を保っていると、本人は思い込んでいるし、世間も許容している。
「17歳か」
 数年前、同じくらいの年の少女に強姦罪で訴えられたにも関わらず、未だ懲りていないと見える。理解出来ないわけではない。自らの放つ愛を真摯に受け止めてくれる相手であれば、誰だって良いのだ。スポンジのように吸収力のある少女が、たまたまその受け皿になっているだけで。どこまでも役者らしい、ロマンチストなのだ。そう思わなければ、かつてのスターも、同じ要素を持つ自分も、あまりにもやりきれない。


 しばらくの間、グレゴリオは白い石膏像に、伏せた視線を送っていた。色をなくしたモーツァルトは、取り澄ました表情で、自らの名声に浸っている。
 くたびれ果てた表情のまま、グレゴリオは再び受話器を取上げた。耳に当てれば、脅迫のようなアーネストの妄言が聞こえてきそうで、ますます気は沈む。
「サルヴァトーレはいるか。寝てるだと? 叩き起こせ」
 目を閉じ、頬杖をつきなおす。今日は、夜の長さを感じずに済むと思ったのに。身体は疲れているが、気は昂ぶっている。どう足掻いても、眠れそうに無かった。
ホテルの惨事は、実際に目にしたニコの言葉を借りれば、「胸糞悪くてヘドが出る」ものだったらしい。政府関係者の処刑はロビーで行われたらしく、ハーレムのチンピラ共でも、あんなに綺麗な壁を蜂の巣にすることはしないというほど、まだ血と硝煙と崩れた岩石の煙が辺りに漂っていたらしい。血塗れの壁や床をお嬢さんに見せないようにするのが難しかったほどだ、と、手にしたブラック・ジャックを弄びながら男は大仰に肩を竦めてみせた。
「ご苦労だったな。ミス・アッカーソンはどうだ」
「指示通りメイドをつけて、鎮静剤を飲ませてます」
「か弱いお嬢さんだからな」
 わざわざ立ち上がり、ミニ・バーの酒を注いでやると、男は少し照れたように頭をかいた。
「いや、どうも」
「功労者だ。何人兵隊を殴ったって?」