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セールス・マン
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プリンス・プレタポルテ

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揺れる口調は不安定な回線のせいだけではない。鼻を啜る音と、湿度の高い声。
「ああ、ビー、なんてこった」
「なんだって」
 グレゴリオは受話器を耳に押し当てた。
「信じないぞ」
 聞き取れないほど潰れた声アーネストは呻く。
「もう二度と神なんか信じるもんか」
 涙に濡れた声で、アーネストは呟いた。
「俺も神も、みんな呪われるがいい」
「何だって、よく聞こえない」
「死にたいよ」
「落ち着け、アーニィ」
「死にたい、いっそ死んでしまいたい」
 グレゴリオの頭が整理できないでいるうちに、泣き喚く声は大きく、終いにはしゃくりあげて喉を詰まらす。
「こんな理不尽なことがあってたまるものか、どうして皆して俺から奪おうとするんだ!」
「おい、アーニィ!」
 握り締めた電話に向かい、グレゴリオは声を張り上げた。
「しっかりしろ、何があった」
「もう生きていてもしょうがない、ビーが、あの子がいないなんて」
「誰だって。ビー? 何のことだ」
「ベアトリス・アッカーソン」
 弱々しく声をしぼませ、アーネストは言葉を継いだ。
「17歳だ。ホテル・ナショナル・デ・クーバの俺の部屋に」
「あそこか」
 グレゴリオは小さく呻いた。
「危ないな。一番大きなホテルだから。だが、まだ間に合うかも」
「頼む、グレッグ」
 かつて一世を風靡した美男スターが、詰まった鼻と掠れた喘ぎで哀願する。
「彼女をそこに連れてきてくれ」
 喉声はますますみっともなくつぶれ、鼻を啜る耳に痛い音と、言葉の合間で呟く支離滅裂の台詞。
「頼むよ。彼女がいなけりゃ、俺は弦のないヴァイオリンよりも惨めだ。愛してるんだ、愛してる」
「分かった、分かったよ」
 底のない谷に石を蹴落としている気分だった。聞き取れない数多の愛の言葉に音を上げ、グレゴリオは耐えられる限り優しい声色で囁いた。
「今すぐ車をまわす。だから、お前はそこで少し寝ろ」
「愛してる」
 理性を放棄した棒読みで、アーネストは終わりを見つけられない睦言を吐き続けている。
「ビーを愛してるんだ。誰よりも」
「聞いてるのか? ……今から助けを送る。しばらくそこにいるのか」
「分からない。代わりの車が手に入り次第、すぐハバナへ向かう」
「分かった。ここに来い。ミス・アッカーソンはうちに連れてくる」
「恩に着るよ」