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プリンス・プレタポルテ

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 若い覇気に揉まれ、良い気分で宿泊先に帰る。乾季とはよく言ったもので、ベッドに腰掛け服を脱ぐ頃には、麻特有の水捌けのよさも相まり、滴るほどの水滴は彼方へ蒸発していた。笑いながらつまずき、固いベッドに倒れると、肺の中の鬱屈が音を立てて抜け、それすらもアルコールは愉快さに変えてしまう。ここまで来れば分かってもらえるだろう。何故ハリウッド人種は、一人寝を好まないか。一度追従に慣れてしまえば、もう絶対に素面ではいられなくなる。


 そんな胸のざわめきのせいもあってか、日がまだ白いうちに不確かな眠りから這い出すこととなった。開いた土塗りの壁は勿論防音なんて無粋な役割は果たさないから、朝食と労働、毎日繰り返されている人間の足音が、家の中にまで届けられる。今日はまだ、村を出ることがないだろうと昨晩のうちに聞いていたので、私はしばらくベッドの上に寝そべり、夜の闇に濡れた名残を残す広葉樹と、忙しそうに立ち回る村人達の気配を肌で感じていた。子供達は裸足で大地を踏みしめ、辺りを走り回っている。戦地にありがちな、チョコレートをねだる少年という光景は見られない。親達は、革命軍を歓迎し、同時に畏れている。彼らは皆、同志なのだ。時代の先端を走る兵たちに戸惑いを感じることはあれど、卑屈に頭を下げる必要など何もない。
 だが今日は、今まで迎えてきた朝とは少し異質の緊迫を受け取り、アルコールに漬けられて標本の如く色の抜けた私の頭も徐々に覚醒の速度を早めている。人々の動きは余りにもせわしない。また、引き結ばれる唇の異様さ。訛りの強さに加わる早口は完全に聞き取ることが出来ないが、どうやら何か良くないことが起こっていることは確かだ。


 昨日私が蹴飛ばした栄養失調の野良犬を、無邪気に棒で叩いて虐待している少年が、窓から顔を出す異邦人を振り返る。その瞬間みせた緊張を得意の笑顔でほぐしてやりながら、私は昨晩放り出したままのシャツを掴んだ。まだ少し冷たさを感じるが、耐えられないほどではない。
「何かあったのか」