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プリンス・プレタポルテ

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 声を上げておいおいと泣き、喚き、熱せられた身体が飛行機のエンジンのように巨大な爆音を立て荒れ狂う。世界中の差別、戦争、弾圧、今までの生涯における挫折、あらゆる不快な事実に対して、ベアトリスは罵りの言葉を発し続けた。自分の声の彼方で聞こえていた銃撃の音はかすみ、このまま大きな壁が、キューバという国を押し潰すことを本気で願った。脱水症状一歩手前に陥っていたはずの瞳から溢れる涙は泉の如く、眼は見るも無残に腫れ、擦った眼の下は荒れて掻き毟るような痛みを感じ続けていたはずだった。だが憎悪は全てを凌駕し、彼女はひたすら泣くことに専念した。
「アーネスト!」
 干からびて腫れぼったくなった喉と辛さを残す舌を振り絞り、彼女は声を張り上げた。
「このペテン師、女ったらしのホモ! いい加減で変態で、何も考えてなくて、離婚の示談すらろくに出来ない馬鹿! 何よ、下半身もろくに役に立たないくせに、無理に若作りして! そんなこと、そんなことしたって人気なんか戻ってこないんだから! 知ってるんだから、聞いたんだから! あんたがスターになったのなんて、干からびた女優のヒモになってたからってことくらい!! あんたなんか、私以外の女、誰も振り向いてくれるわけないわ!!」


 手にした重い瓶を部屋の反対側まで投げ飛ばしても有り余る力は、嗚咽に途切れ突っかかる思いつく限りの罵詈雑言に変わり、やがて一つの言葉に精鋭化される。
「死ねばいい! あんたなんか死ね! 死ね! 死ね!」
 自らの発する掠れた金切り声に誘われるまま、ベアトリスはベッドを蹴飛ばし、転がり落ちた柔らかい羽毛枕を無茶苦茶に叩き、歯を立てた。涙でぐちゃぐちゃの顔に乱れた金髪がべっとりと張り付き、彼女は細い前髪の隙間から声の限りの叫びを尽くした。
「死ね! 死ね! あんたなんかもう知らない!!」
 頭の頂上から長く尾を引く断末と、引っ張られたシーツが甲高い音を立てて破れたのは、ほぼ同時の出来事だった。