小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
セールス・マン
セールス・マン
novelistID. 165
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

プリンス・プレタポルテ

INDEX|53ページ/82ページ|

次のページ前のページ
 

13.ベアトリス


  あわただしいノックに眉をひそめ手をかけると、すっか見知った顔。思わず笑顔を浮かべ迎え入れれば、彼はベアトリスを部屋の中へ押し込むように身体を捻り、乱暴に扉をたたきつけた。
「ねぇ、どうしたの」
 彼が来ることを見越しトランクの奥から探し出した緑色のワンピースは、アーネストと付き合うまでは一番のお気に入りだったものだ。少し短めの裾を引っ張り、ベアトリスは小首をかしげてみせる。
 垣間見える期待と形良い膝小僧など気にすら留めず、彼は荒い息のままドアへ凭れかかり、天を仰いだ。入り口には朝日も降り注ぐことはなく、影の中、詰襟の制服と剥かれた眼だけが白く浮かび上がっている。
「部屋の外に出てはいけません」
 こん、と後頭部が木製のドアにぶつかる音が、はっきりと部屋に響く。
「危険です」
 小さく息を呑んだベアトリスの反応を確認するよりも早く、青年は強く身を押し付け、腫れあがった目元を隠そうと横を向く。
「1時間ほど前、革命軍の使者が入ってきました。ここに身を潜めていた政府の関係者を探すために……目当ての人物は見つかったようですが、他の捕虜もしばらくここに留めおくとのことで、一階には何十人もの兵隊がいます」
 焦りの余り酷くなる訛りのせいで、言葉を取り違えているに違いない。一瞬そう信じようとしたベアトリスの儚い望みは、今までよりも格段に近い場所から鳴り響く銃声で無残に打ち砕かれた。
「部屋に来たりする?」
 力の抜けそうな脚を壁に寄りかかることで支え、ベアトリスは干上がった喉から声を絞り出した。
「押し入ってきて、調べたり」
 寒気が背筋を往復し、腹の上で握り締めた腕に渡るたび、握りこぶしは固くなり、首から上の血が失せていく感覚に襲われる。
「それは、私達が抑えます。それに、ここに宿泊なさっているお客様達は、外国の方ばかりだと、向こうも知っていると思います」
 見る見るうちに青くなる青年の目元と早口の言葉は、頼もしい台詞から容易く信憑性を削ぎ取る。
「窓辺には近寄らないでください。それと、私達以外の人間がドアを叩いても、絶対に中へは入れないでください」
 息を整えることが罪悪であるかのように、彼はベアトリスが口を開く前に部屋の外へ飛び出した。