プリンス・プレタポルテ
水から上がると、体温は急激に奪われ身も震う。惰性。慣習と本能が逆転することに気付く。思考はあくまでも冷静のまま。いつしか無感情のまま唇を寄せた彼女の首筋から同じ匂いを嗅ぎ取る。これほど虚しいこともそうあるまい。
太陽も星も見えない紺色の空の下、服を絞る私と、岩場に伏せる女。
「それ、誰のだい」
振り向かずの呟きは、森には届かない。
「父さんの形見」
身体の接触だけで心まで掴むなど、むしろ触れた途端肉体の存在に眼が曇る。
「今はどこに」
でも私には、いつでも夢を見ることのできる眠り人形がいる。
「革命軍に連れて行かれた」
君が映す美しい夢がもう私の目には見えなくとも、隣で教えてくれるだろう。
ビー、今ほど君を渇望したことはない。
作品名:プリンス・プレタポルテ 作家名:セールス・マン