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プリンス・プレタポルテ

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 水辺にいたのはニンフ……彼女に敬意を表すために、それに類するものとしておこう。浅黒い素足が裾から覗き、化粧気もない。ぼんやりと唇を開き、濡れた衣服と洗濯用の桶を手に、こちらを眺めていた。
 こんにちわ、と笑顔を見せても、一直線の凝視が跳ね返ってくるだけで返事はない。泥の中に足の指をめり込ませたままその場へ突っ立っている。狂女だろうと私が思い込んだとしても、ご容赦願いたい。何せ、格好が格好だった。明らかに彼女のものでないシャツは、何と男物だった。裾はほつれ、幾重にも折り返した裾は皺の部分が垢で黒くなっている。よれた白い布の中で、痩せた身体が浮いている。年は二十歳前後。櫛も通していないもつれた癖毛の中から、中国で飲まされた香ばしい茶のような色の瞳が覗いている。年恰好はハリウッドに住まう乙女達と変わらないものの、決定的に違うのはその眼だった。夢を見る暇もなく、朝早くから夜遅くまで動き続け、現実ばかり映したせいか、酷い近眼のような目つき。いざ遠くを見渡したいと思ったときは既に遅く、何も捉えることが出来ない。


 返事を待ちあぐねて、結局その場にしゃがみこみ、脇に抱えていた洗濯物を水の中に放り込む。白いシャツは一度広がり、平らなまま暗い水の中に沈んだ。今夜のうちに乾くと良いが。石鹸の場違いに潔癖な匂いが鼻をついたとき、出会ったばかりの頃コンドミニアムの小さな洗面所でにきび予防の洗顔に勤しむビーの姿を思い出した。彼女は驚くほどたくさんの石鹸を使い分けている。
 洗濯をしたいといえば、宿泊先の民家の女は驚いたような馬鹿にしたような顔でこの場所を教えてくれた。洗います、と面倒くさそうな表情を浮かべられたが、船にいた頃はポーカーとウォッカと洗濯を数少ないレクリエーションとしていたほどで。人参で指し示されるままに訪れたが、海獣の脂による皮膜が浮いていないだけよっぽど環境は良かった。