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セールス・マン
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プリンス・プレタポルテ

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 日暮れにはまだ少し時間があるものの、村を庇護するように覆う木々の向こうで熟れる空はもう茜色に染まっている。老若男女めいめい手に籠や飯を抱え、仄かに湿った村唯一の通りをせわしなく動き回っている。かつてバティスタ政権健在なる頃、似たような部落を訪れた折とは非常な様変わり、少々心寂しい。かつてこの時間帯通りを眺めれば、一日休むことなく働いた男と女が、疲れた脚を引きずりながら無言で帰路に着く姿がばかりが眼についたものだ。彼らは一様に、瞳にガラス玉のような艶を持っている。澄み切って、同じ感情しか浮かんでいない。脳が動くのを止めたとき、人間の表情はここまで特化され、純粋になるのだ。パスカルが定義したため、常に思考力を動員させられる我々とはあまりにもかけ離れた姿に、大いなる安堵を覚えたものだった。

 通りの突き当たりには小さな酒屋があり、普段は村人達が労働に軋む身体を癒すためにくぐる戸口にも、酩酊した軍装の男達が寄りかかり、調子はずれの歌をわめいている。そこへ果物などを運び込む少年。勝者はえてして気前がいい。かじりもしないで店の中に投げつけられるマンゴーに、盛大な笑いがあがる。ここを音源として、村中に忙しなさが広がっていた。



 私も普段であるならば祝宴の中に紛れ込むのだが、今はスキットルを傾けるだけにとどめる。ハバナに近いとはいえ、メインストリートの裏はもう、森林と人家の区別が曖昧になる。森は受け入れ、人は拒まない。湿度の点では正反対なものの、混沌はどこか故郷を思い起こさせた。盛り上がった木々の葉が影になり、万年じとついた地面は樹林へと続き、周りの人間にも静寂を要求している。だから何かのまじないの如く低い声で会話を続ける、500年前から同じ格好で過ごしているのではないかと思えるような老婆達。地面にしゃがみこんで豆を選別する彼女らの明らかな警戒心こそが、この土地の本来あるべき姿ではなかろうかと、余計なおせっかいを焼きたくなる。
 腹の膨れた犬を追い払いながら5分も歩き、共存地のちょうど境、人世の境、森林の縁。カリブ松に囲まれた泉の一端は、丸く切り取られた空の濃水色を粛とした表面だけは反映するものの、手を差し入れれば内側は黒く、そして温かさも冷たさも感じない。