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プリンス・プレタポルテ

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 ならば、俳優たるグレゴリオはどうするべきか。ドアの位置にカメラ。監督は既に視界の外だ。どちらとも、眼を合わせてはならない。ライトは敢えて背中から、顔を潰さぬ程度に。ヒロインがいないのは至極残念だが、彼の役割としては妥協せざるを得ないだろう。どんな顔をしてみせるか。わかりきっている。笑え。常に要求されてきたように。監督が身じろぎし、スタッフが音と共に存在を消す。不意に付けられたスポットライト。天から降る。スタート。厳かな声。息を詰める気配。視線は集まり、デスクに腰掛け受話器を片手にコインを弄ぶ男に集中している。皆、そしてマイヤーも、グレゴリオが口を開くのを待ち受けている。台詞は決まっているのだ。数秒溜める。軽く受話器を握りなおす。少しだけ息を吸い、微笑む。
「いや、よそう。くだらん」
 カット。周りが息をつく。
「とにかく、午後3時ごろだ。空港に」
「迎えに行かせる」
 削除された台詞は、スクリプトに残ったまま一目には曝されず、だが事実として残され、隠されている。