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プリンス・プレタポルテ

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「ラナは見ているだけで守ってやりたくなる。ジェーン・ラッセルは本当にしっかりしてるよ。高嶺の花だね」
 かぶりつくようにして身を乗り出す男達に心底同情を覚える。庶民派を名乗るだけありカストロは自軍の市民に対する狼藉への対処が厳しいらしく、つい先日も村落の少女をかどわかした青年が将校の手によって広場で銃殺されるのを目撃したばかりだった。一方で滾る血、片方で冷えて流れる血、その異様さについてはまた機会があれば語ることとしよう。とりあえずここにいる兵士は皆女とご無沙汰で、おそらく田舎臭いイルダの話を持ち出しただけでも涎をたらして羨むに違いない。けれど話を聞くだけで満足し、故郷の女達に思いを馳せる。In like Fowler。お下げ髪を解いたばかりの可愛らしい少女と(尤も翌週になってから強姦罪で訴訟を起こしてくるあたり、想像していたよりも可愛げのある性格ではなかったようだが)ヨットの上で過ごした日々が記事の見出しに踊ったとき海兵隊で囁かれたスローガンだが、国の金で揚々と人を殺し、自らの命ですらも賭博の対象でしかない男達と違い、キューバ人たちは明日の生活に命を懸け、常に切羽詰っている。勝利に酔い、陽気に浮かれ騒ぐその雄たけびの中から決して消えることのない緊迫感。名づけることは容易い。理想だ。つまり、無知と同義語でもある。彼らが宿す炎の消える日とはすなわち現在外に目を向けだしたアメリカの介入か、キューバ自身がかつてのアメリカの如く大いなる眠りを宣言することによる恒常的な閉塞、あるいは故郷で待つはずの女が別の男とベッドを共にしていたときのどれかによるものだろう。それを目撃することを私は望まない。「歴史は繰り返す」など、常套句を口にしなければならないのは映画の中だけで十分だ。そんなことを考えながら、私はスクリーンで繰り広げられるような世界を望み続けている。
「ジョン・ウェインは」
「彼は映画以上に豪快な奴さ」
 共演しなくとも断言は出来る。そうさ、デューク。あんたはこの様子を目にしたらなんていうだろう。タカ派のあんたのことだから、さぞかし憤慨して口にするんじゃないだろうか。『こんちくしょう、くそったれどもめ』。
「あんた、新聞記者なんだね。俳優は止めたのかい」
 穢れなき親愛をこめて、若き勝利の兵士は私を見つめる。
「今は仕事がないからね」