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プリンス・プレタポルテ

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 おどけた仕草をして見せると、ついにトラックの排気ガスを凌駕して放射線状に広がる笑い。もちろん、私は口にすることはなかった。『こんちくしょう、くそったれどもめ』。
「いいシャツだな」
 チノパンと白いシャツはアイロンもノリもないこの地では皺だらけになっていたものの、持ち主の腹のたわみに文句を言うこともなくしっかりと役に立っている。丈夫で、洗濯しやすいのがいい。
「そりゃどうも。君たちのも、なかなか洒落てるじゃないか」
 カーキ色のくたびれた軍服の中にちらほらと混じる作業着。袖にこびりつく土はもう二度と消えることなく、彼らが今まで日々の糧を得るため汗を流してきたことを示している。それが、彼らの正体だ。彼らはカストロに同調している市民であり、決してカストロの配下ではない。
「新聞記者はみんな同じ格好をしてるから分かりやすい。遠くから見ても絶対に撃ち間違えないぜ」
 甲高くはじけた笑いに同調しながら、皺に気を沈ませ、付いた染みを何とかしようと考えている私は苦い笑いを浮かべて次々と流れいく太い樹を眺めているしかない。先ほどよりもますます障害物は減り、空の広がりは視界に入りきらないほどになる。まばらな草の生い茂る大地は、ピクニックシートを広げるにはもってこいの場所だった。


 最後にもう一つ、私の主観的好意に基づく革命軍の兵士達の姿を述べるならば、彼らの親切さは限りない。余り物のCレーションをバティスタが合衆国より輸入し(この点から考えても、私は彼の文化的素養、センスというものに疑問を抱かざるを得ないのである)それを更に分捕ってきたものであるから、当然味自体は惨憺たるものだが、大人数で勝利の至福を抱きながらの食事はそれなりに乙なものであるし、これを彼らは美味いと手放しで喜びながら口にするばかりか、缶詰生活に倦みきっていた私に分け与える程の気概を見せたのだ。