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セールス・マン
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プリンス・プレタポルテ

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 すっかり機嫌を直したフィリックス・サッキーニは、スツールに凭れかかったままグラスを上げてみせた。女性を悩殺し、イタリア系の移民ばかりが集まる貧民街で生を受け、ギャングとの繋がりも深い。これだけの共通点があるにも関わらず、今までグレゴリオがフィリックスとそれほどの交際を持たなかったのは、本来驚くべきことであるのかもしれない。だがニューヨークのダンスクラブで踊り明かしながら青春を過ごした彼は、このニュージャージー生まれの大物歌手が披露する放埓すぎる傲慢さに野暮ったさを覚えざるを得ず、その結果常に一歩離れた場所から男がハリウッドで幅を利かせる様を眺めていた。
「いつから来てたんだい」
「年末からさ。知ってるだろ、向かいはサムのホテルなんだ」
 親密な仲であるシカゴのドン、サム・ジアンカーナの名を上げたとき、フィリックスの鼻が自慢げにうごめいたのを、グレゴリオは見逃さなかった。
「凄いな」
「芸能記者のクソッタレ共は意気地なしだから、こんなところまで追いかけてくる勇気なんかありゃしない」
 さも楽しげに口を歪め、ポケットから取り出した葉巻の先端を噛み切り、床に吐き捨てる。グレゴリオは静かに笑って、ライターを差し出した。
「相変わらず注目の的だな」
「まぁな。おまえの方はどうだ」
「ぼちぼちだな」
 バーテンダーに命じて酒を注がせ、すっかり倦んだ味をまた舌の上で転がす。
「俺も今更、マーロン・ブランドに張り合おうとは思わないよ」
「馬鹿言え、あんなボソボソ野郎」
 フィリックスは大仰なほど手を振り回した。
「まだまだ行けるさ、自信を持てよ。ああそうだ、今度仲間内で映画を撮るんだが、あんたも出ないか。ラスベガスを舞台にした話で、脚本は出来上がってる」
「面白そうだ」
 グレゴリオはその大きな瞳以外の部分に笑みを貼り付け言った。
「サンズ・ホテルのショー、妻と一緒に見たよ」
「本当に?声をかけてくれば良かったのに」
「わざわざ引き止めるの悪いと思ったからさ。グリアの奴、感動してたぞ」
「この前、ケネディ上院議員も来てたんだ」