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セールス・マン
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プリンス・プレタポルテ

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「アルコールはまだストックがありますので」
 彼の強烈な訛りに違和感と戸惑いは隠せないが、何もないよりは百倍安心できた。
「男って、なんであんなにお酒ばっかり飲みたがるのかしら。パパも昔から、夕食の後には何があってもウイスキーを飲んでたもの」
「疲れた後のアルコールは、何よりの養生と言いますからね」
 ちらりとこちらに投げられた視線が、また慌てて元の場所に戻された。そんなにもふしだらな格好をしているのだろうか。僅かに身を起こし、ベアトリスは脚を縮めた。
「じゃあ、部屋の外には人がいるのね」
「はい。お客様も、よろしければいらっしゃってはいかがでしょう」
 キューバに来てからこの方、彼女はアーネスト以外の人間とろくに話もしなかった。彼が教えてくれたスペイン語を使う機会もなく、ホテルにいれば英語が通じる。殆どがアメリカ人の宿泊客たちとも、視線が怖くて出来る限り避けるようにしていた。
 だが、いざホテルの中に閉じ込められる日が続くと、彼女の孤独はあっという間に限界を迎えてしまった。
「そうね、後で行ってみようかしら」
 結んだお下げ髪を弄りながら、ベアトリスは言った。
「それより、外はどうなってるの。いつになったら戦いは終わるの」
「さぁ、それは……」
 丸めたシーツを抱え、青年は俯いた。
「何も分からなくて」
 彼の腕から垂れる布を見つめ、カーディガンの胸元を思いきり握り締める。
「怖い」
 言葉は強く部屋の中に反響し、耳の中に居座ろうとする。
 嫌っていた沈黙が部屋を占領する中、彼女はじっと目を伏せ、背凭れに身を押し付けていた。言った途端、感情は体中に広がる。唾を飲み込んでも、一度大きく火を噴いたざわめきが消えることはなかった。後悔したが、反省する余裕もない動揺に、ますます強くカーディガンを掴んだ。
 青年もしばらくの間何も言わなかった。ベアトリスは彼が次の動きを起こすことを渇望していたが、身を起こすことは到底出来そうにないとも分かっていた。彼女が想像する自分の動きは、あってはならないことばかりで、けれど差し出されたら飛びついてしまうことが目に見えており、あまりにもみっともない自らの姿に混乱して、涙ぐんでしまいそうになる。
「ラジオをお持ちいたしましょうか」