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迷路の風景

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藤棚とランドセル



小学校の授業が終了する鐘の音を
校庭の藤棚に寝転がって聞いていた。

子供の頃は、随分高く感じ
その空に近い別世界で
よく隆史と遊んでいた。

大きくなった私が絡み合った枝に脚をかけるたび
ギシギシと枝が悲鳴を上げ
今にもポキンと折れそうだった。

橙色の太陽が深緑の山の谷間に沈む頃、
登り棒の影はどこまでも長く伸び
ブランコを漕ぐ二人の影も
高く、高く伸びていく。

夕闇が近づくと隆史の
お母さんが「ごはんよー」と
迎えに来る。

私には迎えに来る人はいなかった。
隆史のお母さんは私にしょっちゅう
夕飯をご馳走してくれた。

ポツリポツリとその下くらいしか
明るく灯らない外灯を頼りに
誰も待つ人のいない家路を急ぐ。
真っ暗な町にオレンジ色の窓の灯が
いつもうらやましかった。


「しゅーん、くん!」

藤棚の上からランドセルをしょった駿君に
明るく声をかけると
周りにいた子供たちも
なんだこのババア、年甲斐もなくという感じに
私を見上げて笑っていた。

「しゅん! 登ってきなよ!」

「やだよぉ~」

駿君は恥ずかしかったんだろう
私を置いてサッサと門へ向かってく

「ちょ、ちょっと待ってよぉ~」

友達の手前カッコつけた駿君は後ろを振り向かない
ランドセルの背中と、通い慣れた通学路の景色に
隆史を思い出す。

駿君は私が後ろからつけていることは知っている。

3つ目の十字路で駿君が友達と別れ
一人になった、私はわざと声をかけず
その後ろを歩いていた。

「オイ! 今日は暇だから遊んでやる」

駿君は私のことをもう「おねえちゃん」とは呼ばない。

「うち、来る?」

「行ってやってもいいぜ」

なんとも生意気なクソガキだ。
しかし、小さな恋人と過ごす時間が
年々、私の心を軽くしてくれた。

うちでやることは決まっている。
こたつテーブルのうえにお菓子とジュースを用意して
お互いテレビに向かってゲームするのだ。

「しゅん、最近かつぶし工場のおやじ、どうよ?」

「あの、じじいか? 夕飯食べに来るよ」

「で、どんな感じ? 優しくしてくれる?」

「うん、普通」

「普通? やなことされてない?」

私はかつぶし工場の社長の粗探しをしていた。
駿君は利口だから、無駄口はきかない。
男の子だからかもしれないが、彼の心の中を
私は見たことがなかった。
つまり、私にはまだ心を開いていないということだ。

その夜、突然山の上の気取った母が現れて
私に言い放った。

「この家、手放すから、あんたもマンションに来なさい」

「……」

色々、言いたいことがあったが
私は無言のまま、風呂に入った。
母は鍵もかけずに出て行った。

「鍵くらいかけて帰ってよ……物騒じゃん」

もう独り言になっていた……。

作品名:迷路の風景 作家名:momo