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迷路の風景

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雨が降って虚しくて



「ちょっと! 何してんのっ!」

魚屋の「魚八」の娘の花ちゃんが
配達の帰り道
つっ立ったままの私を見つけ
車から降りてきた。

雨が本降りになっていたからだ。

「早く! 乗って! 送るから!」
「あ……ありがとう、ボーっとしてた」

ライトバンの助手席に乗り込むと
ワイパーの音が耳障りなほどに
ギーコ、ギーコと響き
バックミラーに吊る下げられたお守りが
やけに揺れていた。

「ねえ、もう聞いてる? しゅん君学校で濡れ衣着せられた話」

「聞いてないよ、何も」

「じゃあ、たいして落ち込まなかったんだね、ならよかった」

「何の話?」

「や、うちの子の話だからさ……実はね、
先月、教材費の入った集金袋を失くした子がいて
本当は学校に来る途中で失くしたらしいんだけど
机の引き出しに入れたのを誰かが
盗ったって騒ぎ出したらしくてさ……」

「……しゅんが疑われたの?」

「らしいんだよね」

「ひどい……」

ワイパーの音が、そのあとの
花ちゃんの声を掻き消し
私の耳にはもう何も入ってこなかった。

雨はますます激しく降り
私のあばら家のトタン屋根に
心臓の鼓動のように
大きな音を立てて打ち付け
言葉が流れることのない部屋に
テレビの音が無駄に邪魔に流れ
洗面所の前の廊下には
雨漏りのために置かれたバケツの水が
落ちてくるいくつもの雨粒に
耐えていた。

椎名さんがかつぶし工場の社長と
結婚する噂を聞いたのは
そのあとすぐだった。

一生結婚しないと言っていた
椎名さんが最近よそよそしく
私を遠ざけていたわけが分かった。
椎名さんは変わった。
変わらなければいけないのかもしれない。
変わらなければいけないんだ。

小さなこの町では、
みんな人の噂話が大好きだ。

どんな噂をされても
ポジティブに受け止めてきた椎名さん。
でも、もう彼女は限界だったのかもしれない。

私は、駿の父親は一生、
隆史ひとりと思っていた。
椎名さんの結婚は隆史だって、きっと喜ぶはずなのに
私は頭ではわかっているのに
全く嬉しくなく、逆に裏切りを感じた。

ネガティブすぎる私は
この町で
ひとりだけ時が止まったまま
置いてきぼりのようだった。

作品名:迷路の風景 作家名:momo