迷路の風景
夢のつづき
眠れない日々が続いた。
母は、悪気はないのだが
人に対する言葉の使い方をよく知らない。
「こはる」で酒を飲んで
小春ねえちゃんに愚痴をこぼした。
「あのばばあ、私をこの町から追い出そうっていうこんたんだよ」
「そんなことないわよ」
「そうだって」
「親なんだから、そんなことないって」
「だって、聞いてよ! マンションに住むのは嫌だろうから、
子供の頃なりたかった美容師の勉強を東京に出てしてこいってんだよ! ういっ~」
「いいじゃない、私は反対ではないなぁ」
「ねえちゃんもか……ねえちゃんも追い出したいんだな?……」
「ほらほら、もう今日は奥で寝なさい」
小春ねえちゃんは、私を奥の座敷に寝かし
そっと布団を掛けた。
小さい頃も、隆史んちに泊まった時は、
ねえちゃんがよくそんな風にしてくれた。
襖が締まり店の明かりが
真っ暗な部屋に細く長く漏れている
静かに食器がぶつかる音を聞きながら
私は泣いていた。
夢を見た。
夢の中でも隆史は死んでいて
私は隆史の想い出を探し求め
ハッと気づいた。
留守電に隆史の声が残っていることを…
夢の中だというのに
ハラハラして
心臓がバクバクで
小春ねえちゃんと椎名さんに
早く伝えなくちゃと
二人を探して
町の中を夢中で駆け回る。
「はあ…はあ…ねえちゃんっ!!!」
汗だくで、ねえちゃんの後ろ姿を遠くに
見つけた所で目が覚めた。
「夢か……」
私は夢だったことにがっかりした。
夢の中では隆史の声が留守電に残っていたのだ、
その声を聞き逃してしまった。
たとえ夢でも会いたい。
私の決心は、まだできていなかったんだ。
新聞配達の自転車の重いブレーキの音がする。
まだ寝よう。
もう一度、夢の続きが見たいんだ。
夢は途中だったのに
その夢の続きを見ることは
永遠になかった。
私は東京に行くことに決めた。