迷路の風景
闇の中
いつからか私はうまく笑えない
人間になっていた。
居酒屋「こはる」は隆史のお姉さんの店だ
カウンターの隅っこで毎晩ひとりきり
晩酌するのが日課になっていた。
「そろそろ彼氏、つくりなよ」
小春さんは私に恋人を作るようにすすめる。
その優しさに触れる度、私は死にたくなるのだ。
何度も死のうとした、でも死ねなかった。
私は弱い人間だ
「弱い人間だから死ぬ」なんて
絶対「嘘」だ。
弱いから…怖くて…
死ねないんだ。
私は弱虫。
私は結局、美容師にはならなかった。
高校にも行かず、コンビニでバイトして
やはり、ただなんとなく…
なんとなく暮らしていたのだ。
なんとなくすぎて話にならない。
そんな時、突然隆史が死んで
それからずっと地獄の底を歩いている。
「ねえちゃん、帰るね」
「明日、七回忌、寺に10時だけど来る?」
「たぶん」
月明かりを頼りに
浜へ降りていく
私はまだ太陽の暖かさを少しだけ感じられる
砂浜に両手を広げ
腹ばいに寝転び
海を…隆史を抱きしめた。
「あいたいよぅ」
いくつも、いくつも
崩れる波音が
私を後悔の渦に巻き込む
「すき」って言えばよかった。
いっそ人魚姫のように海の泡になって
消えてしまえたら
どんなに楽だろう。
いつになったらこの地獄から抜け出せるのだろう…