迷路の風景
青春とは儚く短く
初めて読んだ童話はたしか
アンデルセンのみにくいアヒルの子
一番好きな童話は人魚姫。
水平線から朝日が昇る小さな
海辺の町に生まれた私は
子供の頃、遠浅の海で日が暮れて
潮が満ちるまでいつまでもいつまでも
遊んでいた。
誰も迎えに来るモノはなかった…
沖まで泳いで波に浮かんで
真っ白な雲の動きを
じーっと眺める
人々の賑やかな声は
遥か遠くにわずかに聴こえ
その波の上はふたりだけの小さな世界。
「たかし、私、美容師になろうかな」
「高校、行かないの?」
「勉強、嫌いだし」
16歳の夏、国道沿いのサーフショップの息子は
プロサーファーを目指し
15歳の私は高校に行かなくてもいい方法を探していた。
隆史のショップでシャワーを浴び
濡れた髪も乾かさず
たかしのバイクに にけつ する。
ピンクのヘルメットは隆史から
誕生日にもらった。
彼の腰に腕を回し、潮風の中を走り抜ける
気分は爽快だ。
私は、自分で生きていく道を
早く見つけたかった。
母のように男に頼って
この男と結婚したら金には困らない
そんな考えは嫌いだった。
この世で一番大切なのは
人を思いやる気持ちだけだと思っていた。
でも本当は、そう思うことで自分を
支えていただけなのかもしれない。
家まで送ってもらうと、真っ白な高級外車が
オンボロの家に横付けされていた。
母の彼が遊びに来ていたのだ。
「たかしんちで見るわ、ベストテン」
「わかった」
隆史は幼馴染で親友で
私のことを一番理解していた。
大好きな友。
海が好きな友。
数年後、彼が海で死ぬなんて夢にも思わなかった。
そして、私はひとりぼっちで
いまだに歩き続けている。
だから 私は まだどこかで
迷い続けている…きっとそうに決まってる。