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迷路の風景

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駄菓子屋「佐藤商店」



駄菓子屋「佐藤商店」の
四畳半程の店内は
午後3時を回れば
子供達で満員御礼だ。

おばちゃんは
店の一番奥の少し高い場所の
エンジ色の座布団の上に座り
子供たちはギュウギュウ詰めの店内を
かきわけかきわけ
おばちゃんのところまでたどり着かなければ
人気の麩菓子も、真っ赤な紐引き飴も
買うことはできない。

鍵っ子の私は、毎日、牛乳箱の底に隠した鍵で
家に帰り、こたつの上に置かれた100円玉を握り締め
雨の日も、風の日も、おばちゃんの店に通った。

私のおばあちゃんと佐藤商店のおばちゃんは
同級生だった。

たまに店が暇になるとおばちゃんは
コカコーラの広告の付いた
赤いベンチに腰掛けて
思い出話をしながら
ふかし芋をご馳走してくれた。

私のおばあちゃんは
小さな町でお金持ちの家に生まれ
美人で頭が良くて有名だった。
大人になると東京に出て
不倫して、未婚の母で子供を産んで
戻ってきた。
その子供の子供が私であり
そして、私にも父がいなかった。

おばあちゃんを知る
この町の人は、誰もが私に優しくしてくれた。

あの時、ご馳走になったふかし芋にも
おばちゃんの優しさが詰まっていた。

町の人が何故優しくしてくれたのか
それは、ずっと後になって
知ったことだった。

子供の頃は
ただ暇だった。
暇で暇で暇過ぎて
私は両方の指を使って
自分が嘘をついた数を数えて
懺悔ばかりしていた。
嘘をついたら死んだとき
地獄に落ちると信じていたからだ。

私が暇で、退屈でしょうがない間
同級生は一生懸命勉強し、お稽古事に通い
家のお手伝いをしてたんだろう。

私ときたら
ただ、流れる雲を追いかけて
波の数を数え
沈む夕日にみとれ
あかぎれの小さな手をポッケにつっこみ
ただ…なんとなく…なんとなく…

大きくなってしまった。

作品名:迷路の風景 作家名:momo