迷路の風景
旅立ち
東京へ行くと決めた日から
身支度を始め
心の整理もはじめた。
全部捨てていこう…
そう決めたはずなのに
なかなか捨てる決心がつかない。
最後の日
育った町をひとまわりする
懐かしい記憶
校庭の陽炎
川のせせらぎ
海の見える丘
空は、とても近く
雲に手が届きそうな
そんな日
潮の香りが強くなる
波の崩れる音が
心地よく響く
キラキラ光る波が
眩しくて、目を細めると
隆史と私が波とじゃれあっていた
ううん、そうじゃない
駿君と女の子が二人で
砂浜に流木で何か書いて遊んでいた。
駿君に別れを告げたかったが
辞めた…。
いつか、また必ずこの町に帰ってくる。
私は少女のまま時間が止まっていた。
大人になって、帰ってくる。
荷物はスーツケースただひとつ。
ガラガラと大きな誇らしげな
音を立てて、町を去る。
右手に海を眺めながら
やがてすぐ、暗いトンネルに入る
どこまでも続く、長い、長いトンネルだ。
私は、心地良い揺れに身を任せ
いつのまにか眠りに堕ちていた。
暗闇の中から
眩しいほどの光の渦の中に
吸い込まれていった。
(迷路の風景/了)